ゼロ→ムゲン6 | ナノ


ゼロ→ムゲン6

普段から得意じゃない台詞だったから、という理由でもある。

「てめぇは、その、少しは…良かった…かよ?」

恐る恐る、声に出してみた。
だが、やはり返事がないので恐々静かに顔を上げると、直ぐ傍では少し丸まった臨也の背中が伺えた。
表情は見えなかったけど、声だけ。

「俺、シズちゃんの身体、…嫌いじゃない」
「!」

はじめて、違う言葉を…
もらえた。

「お、おい、それって」
「せっかちだなァ。直ぐ答えなんて出せない」

眉間にしわを寄せながら振り返る。

…違う、直ぐに答えを言いたくないだけなのだ。
いつまでも、どこまでも、悔しい。

臨也は歯痒い気持ちでいたのを、静雄は判っているのだろうか。

「だけど、残念だなぁ。殺し合いの相手が居なくなるのは」
「…そうかよ」
「今まで通り道でばったり出くわすとしよう。シズちゃんはどうするの?」
「…だ、抱きしめたくなる、だろ。好きなら」

その返答で、あまりにものギャップに臨也は面食らった顔をした。

「ッ十年近くも同じ行動取ってるんだからさ、身体が勝手に反応するかも。俺普通に切りつけちゃうかも」

どこか必死な様子で目を張っている。
まるで、“そうだな”と言って欲しいかのように。

「てめぇはそうでも、俺はもう…ていうか別に刺さンねぇし」

照れくさそうに、先ほどの行為を思い出しているのか、頬を染める静雄。
その様子を垣間見て、悩む男、折原臨也。

「まぁ…セックスしてるときの顔は可愛かったよ」
「なっ!」

更に真っ赤になって目を見開く静雄だったが、ふと何かに気づいてシーツをめくった。

「なんか…違和感?…ッげ!」

先程より濡れた妙な感触は勘違いではなかった。
臨也が場の悪そうな顔をし、痒くもないのに後頭部らへんを二、三度掻いた。

「あー、中に出したからね。でもシズちゃんが悪いんだよ、俺ちゃんとゴム買ってたんだから」
「…るせーな!ゴムなんざいらねぇんだよ!ガキが出来るわけでもねぇのに…」
「ちょっとソレ聞き捨てならない!そういう問題じゃないだろ」

手を腰に当てて、少しだけ声を張り上げる臨也。
静雄はそれに負けじと反論した。

「ああ?男の特権だろ!女に勝てることっていやあ、生でさせてやることくれぇで…!」

その意外な一言に、臨也は大層面食らった。
案の定言葉が詰まり、目線が僅かに左右に泳ぐ。

「…ッそんなこと、思わなくていいんじゃない」

舌打ちするも、ティッシュを手渡す臨也。
静雄は無造作に二、三枚抜き取ってから尻に沿って乱暴に拭き取った。
視線を臨也に戻すと、臨也はホテルのメニュー表を手に取っていた。
パラリとめくった先、目に付いたのはコスプレ衣装。
…スルーしなかったのは後ろで騒いでいる男だったが。

「白衣あんじゃねぇか」
「ナースもあるけど」

静雄の心拍数が臨也の耳にまで聞こえそうなくらい近づいていた。
これ以上引かれることなどないだろうと、本音を口にしてやった。

「おい、着たい」

臨也はお決まりな台詞が返ってきてげんなりしたが、ここまでくればもう何がきてもおかしくはない。

「ナース姿で俺の事誘ってみる?多分利かないけど」

「でもトムさんはムラムラするって言ってくれたぞ」

「…あーそ、へー」

生返事をお構いなしに、静雄は臨也の肩を揺する。

「お前白衣着てくれよ。いや、着ろよ」

そして、身を乗り出して臨也の肩に顎を乗せた。
振り返った臨也の唇が、ちょん、と静雄の唇に触れる。

「っ」

一瞬だったので直ぐに離れたが、かなりの至近距離でしばし見詰め合ってしまった。
今度こそ、心臓のバクバクとした大げさな音は駄々漏れであろう。
…臨也が小さく囁いた。

「ねぇ、魔法にでも掛かったのかな…こんな所に居るから」
「なに、が」
「それとも…熱気にでも頭がやられたか、だね…」

甘くうっとり話す臨也の吐息に、くらりとした。
互いの顔は、近づいたままだ。
続いて、魔法を掛けるように、また囁く。

「俺はどこまでも男だよ」
「ッ、え、…ん!?」

気付けば、臨也の唇が重なっていた。触れるだけのキスから直ぐに無理やり唇を抉じ開けられ、乱暴に舌が入り込んでくる。
びりびりと電気が走ったように頭がざわついた。

「む、ふ、ぅ…!んんんっ」
「…舌、出して」
「はぁ、あ、…んぁ?」

言われるがまま、おず、と舌を伸ばした。
すると、ちょん、と臨也の指先が静雄の舌先をつつく。

「ここで…俺の、口の中の上ね、こう…裏をなぞって」
「え、ちょ、いきなり、なん」

さっきから甘く誘導されて、股間が痛痒くなってくる。
頬を真っ赤に染めつつも戸惑っていると、臨也は口を開けて目を閉じた。

「…覚えなって、キスの仕方くらい」
「わ、わかんねーし、そんなの!」
「しょうがないな、…こうだよ」

物言いはしなやかであるのに、臨也の口の動きは随分と獣のように喰らいついてきた。
臨也の薄い舌と静雄の肉厚な舌がぶつかり合い、そのまま的確に臨也は静雄の歯列をなぞる。

「!ッふぅう、…くっん」
「俺が…シズちゃんの…歯の裏を、舐めてるときは…俺の舌の裏を、そう」
「んんんっ、んーっ」
「はッ…舐めて、そこ。…そうだよ、…最後に、ん、吸って」

声も、触れる感触も、全部ひっくるめて静雄に襲い掛かった。
刺激が強すぎて、涙が溢れてくる。

「ちょっと、もう…ッ唾出し過ぎだって」

静雄の口端から垂れた唾液を舌で一掬いし、最後に軽く吸い付いてから離れた。

「…っう」
「…わかった?」

怒った口調で小首を傾げて言われても、静雄にはもうそれどころではない。

「いつも…」
「え?」
「いつも、女と…こういうこと!して…口説いてッ…んのか!」

真っ赤になった顔を片手で覆いながら、涙目で臨也を睨みあげた。

「…あのね」

呆れ顔も束の間、まだ濡れた髪をかき上げる。

「二人で気持ちよくなるのに、男も女も関係ないって」
「…ッ?」
「今…思ったから、したんだろ」

そう毒づいて、少しだけ悔しそうに目をそらす。

「人間でも、化け物の…シズちゃんでも」
「…ッ」

その一言に、静雄の鼓動はもっともっと早くなった。


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