ゼロ→ムゲン5 | ナノ


ゼロ→ムゲン5

随分長い間バスルームに居たせいで、二人はすっかりとのぼせてしまっていた。
臨也はホテルに用意されていたバスローブを身に纏うと、即座にエアコンのリモコンに手をつける。

ピッ

「……?…ッ!」

ふかふかのベッドで目を覚ました静雄は、今居る場所が先ほどと違うことに気づき、飛び上がった。

「あ、起きた」

濡れた髪をタオルで乾かしていた臨也が振り返ると、開いた口が塞がらない静雄を確認して半眼になる。
どうやら状況が把握できていないらしい。

「あれから直ぐ気絶してたよ。運んで直ぐ起きるなんて、わざと?」
「…マジで、か。!」

シーツをめくると、何も身に着けていないことに気が付く。
下半身にも違和感がある。
静雄はベッドの中で三角座りになり、膝を抱えた。

「…何?丸まっちゃって」
「夢じゃねぇ…」

臨也は冷蔵庫のペットボトルを手に取り、キャップを捻る。

「夢の方が良かった?」
「違ぇ、マジで、都合の良い夢じゃなくて、良かった…」
「…」

ごく

喉内に流れる水は、音を鳴らして臨也の胃袋へ。
そうやって本音も流してしまいたかったが、もはや事後である。

「つーか…よく俺の事運べたな」
「はぁ?見た目で判断しないでくれる。俺が今までシズちゃんと張り合えてきたのは努力の 賜 物 なの」

少し怒った風に語尾を強くする。

「覚えてねぇ…」

運んでくれた事を覚えてない、静雄にはそれが勿体無かった。

「臨也…俺」
「…言わないで」
「!わかった…」

何を言おうか自分でもきちんと判っていなかったのに、臨也に制されると考えも止まってしまう。
きっと、とても大事なことなのに。

「いきなり過ぎて整理出来てない」
「…」

臨也はそういいつつも、ベッドまで歩み、静雄に背を向けて座った。
後ろ向きのままペットボトルを渡してくる。

「はい、水。…声枯れてる」
「お、おう」

焦りなのか、喉が渇いていたのか、そう言われて動揺したのか、喉越しで全部飲んでしまった。

「…ッその、一度だけで良いって言ったのは俺だし、てめぇは気にすんな…。俺は、後悔してねぇ…し」

臨也は何も答えない。
静かなエアコンの音だけが部屋に響いた。

「…まだ時間あんだろ?てめぇは帰っていい。俺は…もう少しここにいる」

初めての、場所だから。
もう少し、浸っていたい。

「服破られたから、帰れないよ」
「!あ、悪ィ」
「…まぁ、コート羽織るから良いけど。パンツは乾くまで待たないといけないし…ああ、シズちゃんのも一緒に吊っておいたから」
「…あ、ああ」

そしてまた、静寂が流れた。

「臨也」

耐え切れなくて、名前を呼ぶことしか思いつかない。

「なに?」

小さく返され、静雄は膝を抱えなおし、顔を伏せた。

「………俺の事…抱いてくれて…」

ありがとな。

「…っ」

その、一言が言えない。

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