◎ゼロ→ムゲン5
随分長い間バスルームに居たせいで、二人はすっかりとのぼせてしまっていた。
臨也はホテルに用意されていたバスローブを身に纏うと、即座にエアコンのリモコンに手をつける。
ピッ
「……?…ッ!」
ふかふかのベッドで目を覚ました静雄は、今居る場所が先ほどと違うことに気づき、飛び上がった。
「あ、起きた」
濡れた髪をタオルで乾かしていた臨也が振り返ると、開いた口が塞がらない静雄を確認して半眼になる。
どうやら状況が把握できていないらしい。
「あれから直ぐ気絶してたよ。運んで直ぐ起きるなんて、わざと?」
「…マジで、か。!」
シーツをめくると、何も身に着けていないことに気が付く。
下半身にも違和感がある。
静雄はベッドの中で三角座りになり、膝を抱えた。
「…何?丸まっちゃって」
「夢じゃねぇ…」
臨也は冷蔵庫のペットボトルを手に取り、キャップを捻る。
「夢の方が良かった?」
「違ぇ、マジで、都合の良い夢じゃなくて、良かった…」
「…」
ごく
喉内に流れる水は、音を鳴らして臨也の胃袋へ。
そうやって本音も流してしまいたかったが、もはや事後である。
「つーか…よく俺の事運べたな」
「はぁ?見た目で判断しないでくれる。俺が今までシズちゃんと張り合えてきたのは努力の 賜 物 なの」
少し怒った風に語尾を強くする。
「覚えてねぇ…」
運んでくれた事を覚えてない、静雄にはそれが勿体無かった。
「臨也…俺」
「…言わないで」
「!わかった…」
何を言おうか自分でもきちんと判っていなかったのに、臨也に制されると考えも止まってしまう。
きっと、とても大事なことなのに。
「いきなり過ぎて整理出来てない」
「…」
臨也はそういいつつも、ベッドまで歩み、静雄に背を向けて座った。
後ろ向きのままペットボトルを渡してくる。
「はい、水。…声枯れてる」
「お、おう」
焦りなのか、喉が渇いていたのか、そう言われて動揺したのか、喉越しで全部飲んでしまった。
「…ッその、一度だけで良いって言ったのは俺だし、てめぇは気にすんな…。俺は、後悔してねぇ…し」
臨也は何も答えない。
静かなエアコンの音だけが部屋に響いた。
「…まだ時間あんだろ?てめぇは帰っていい。俺は…もう少しここにいる」
初めての、場所だから。
もう少し、浸っていたい。
「服破られたから、帰れないよ」
「!あ、悪ィ」
「…まぁ、コート羽織るから良いけど。パンツは乾くまで待たないといけないし…ああ、シズちゃんのも一緒に吊っておいたから」
「…あ、ああ」
そしてまた、静寂が流れた。
「臨也」
耐え切れなくて、名前を呼ぶことしか思いつかない。
「なに?」
小さく返され、静雄は膝を抱えなおし、顔を伏せた。
「………俺の事…抱いてくれて…」
ありがとな。
「…っ」
その、一言が言えない。
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