セクスティニエ 3



「何、無理くり仕舞ってるの」
「…」


ドアを開けたは良いが、目の前で腕組みをしている臨也を目にすると居た堪れなくなった。
初めて訪問していきなりトイレに入ったと思ったら自慰をしていたなど。


「あのねぇ…」

「なんで、俺が、これ」

「ハッ!何言ってるの?判るに決まってるだろう?」


大げさなまでに肩を竦め、両手の平を返して呆れてみせる臨也。


「あんな顔で座られてちゃ、俺だってねぇ…」

「っ」


ずいっ、と近づかれ、上目遣いをされる。
睨むかのような、怒っているような、どちらにせよ静雄には可愛く見えるのだが。


「やっと俺の家に来たっていうのに、俺本人はいらないわけ?」

「え?」

「シズちゃんって淡白だと思ってた」

「なっ、それはこっちの台詞…っん!」


突如首に回された腕に引き寄せられ、勢い良く唇に齧り付かれる。
臨也は背伸びをして下からキスを強請った。
一見、静雄がしているかのように見えるが、貪られているのは静雄の方だった。
薄くて長い臨也の舌を、初めて味わって知った。


「んーっ!」

「キス、下手だね…。ぁ…ん、もっと」

「悪かった…な!じゃあ、すんな!」

「フフ、拗ねんなよ」


ごめんね?


そう小さく呟いて、また舌を絡めてきた。
たまらなくなって、臨也の腰に両手を回した。
勢い余って、抱き上げてしまう。


「わっ、シズちゃん…」

「臨、也…ッ」


女の子を抱っこするみたいに臨也を抱きしめてしまった。
したい、臨也と、セックスがしたい。
でも、どうやって?


「楽しいね?」

「…べ、つに」


「違うの?いつもと違うことして俺はとっても楽しいよ」

「ッ俺は!」


本当に、お前が好きだから 例えお前にとって遊びでも、
お前に触われるなら、もう…


「もっと、楽しいことしよっか」

「?」

「だから、ね。下ろして?」

「…い、嫌だ。」


臨也を抱き上げたまま顔を赤くして首を振った。


「えー。別にナイフ取って不意打ちするとかじゃないんだけど?」

「俺、駄目なんだよ、毎日…」

「あー、それね!意外だったよ。それはいくらなんでも俺でも判らなかった」


臨也の綺麗な両手で、静雄は両頬をぺんっと挟まれる。


「シズちゃんも人間染みたところ、あるんだねぇ」


大嫌い 化け物は、駄目でしょ、そんなことじゃ。


背景にしょった言葉が臨也の心の奥底に突き刺さる。


「なのにさぁ…おかしいね。俺」


寂しそうな顔をして静雄の顔をまじまじと見つめる。
傷つきながらも臨也の顔を見返す。


「俺、おかしくなっちゃったよ」

「いざ、や…?」

「いっつもさー。…シズちゃんのせい、だよ」

「す、すまん」

「…アハッ!わかってないのに何で謝るんだよ、変なシズちゃん」


臨也は顔を見られたくないせいか、静雄の肩に顔を埋めた。


「ね…、今度は俺も混ぜてよ」

「え?」


そして、上げた顔の目先には、真っ直ぐで濁りのない瞳。


だが、目の前の臨也を傷つけないよう、だけどもどうしようもない熱をぶつけることの差が激しい中、臨也のほうはというと、お構いなしに静雄の後頭部に両腕を回した。


(…かわいい)


静雄はたまらなくなった。
この十年近くの争いはなんだったのだろう。
臨也には青春時代のほぼ全てを台無しにされたというのに、何故こうなったのだろう。

何かの我慢が爆発したかのように、互いが互いの口内の粘膜を感じ取る。
臨也の呼吸は途切れ途切れになり、小さく名前を呼んだ。


「シズ、ちゃ。はげし…」
「ッ…ぃざ、や」

天敵であるはずのニヒルな男、折原臨也は、今は色っぽく溜息を出し、情欲に塗れた顔をしていた。

壁に背中を擦りつけ、齧り付くようにキスを交わす。
もう、食べたい。


「フフ…、俺、こんな必死にキスしたの初めてかも」
「そ、なの…か?」


息切れ、肩を揺らしながら互いの顔を見つめる。


「俺、淡白なエッチするからね。余裕だよって顔して」
「…そ、そうなのか」


少し残念がる静雄の顔を見て、吹き出す。


「アハハ!馬鹿だね、女の子に必死になってがっついたら格好悪いじゃないか。」
「ッ悪かったな…」


眉間にしわを寄せる男と、
笑いを我慢できずに涙を浮かべてその男に抱き上げられている男。


「俺もシズちゃんも女の子じゃないからね」

「当たり前だろうが、お前が女でたまるか」

「そう…だから、ね。我慢しなくていいんだよ」

“がっついて”

耳元で囁かれ、舌を滑り込まされた。


「…ッ!」

びくっ

「ちょっ、いざ」
「耳、感じるんだ」


くっくっと喉で笑いながら愉快そうに顔を歪める。


「このやろ…ッベッド!どこだよ!」


臨也を抱き上げたまま無造作に歩き、頭上で揺らめく臨也を見上げる。


「あっち」


静雄の後頭部に両手を回したまま、顎でしゃくって余裕そうにしている臨也が憎らしかった。
ベッドに向かう途中、静雄の鎖骨辺りに臨也の腰骨が当たって痛く感じた。


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