「有難うございましたー」
バニラシェイクを2つ、テイクアウトで胸のうちに抱える静雄。
足先は新宿に出向いていた。
「女ねぇ…」
周囲を見渡せば、必ず誰かと目が合う此処、池袋。
此処に住んでいれば
『バーテンダー服を着た金髪男』
をきちんと認識している者がほとんどだ。
だが、たまに何も知らない旅行者なんかからはナンパもされるし、
ニュースや新聞に疎いホストからのスカウトも多い。
静雄は、次第に考えるようになってしまったのだ。
(あ…この女だと、強く手を引っ張れば…もげるな)
歩きながらそんなことをぽつりぽつりと考える。
冷たいバニラシェイクが入ったカップの雫は紙袋をしならせていく。
(前、俺に告白してきた外人の子も、しがみついてきたからしつこくてどかそうとしたら吹っ飛んだし)
ぽつぽつ。
歩く音がギシリギシリと変わっていく。
「いてぇ…よな。やっぱり」
頭の隅っこでいつも存在する引き金。
罪歌の件でようやく初めて言うことを聞いた”暴力”は、
抑えることを覚えた代償に違う欲求にタカが外れたように反動した。
(今なら…告白とかされても、抱ける、かな)
試してみたいとは思うが、生憎好きな女性は今は居ないし、無理に考えない事にしよう。
頼んだのは自分だった。
喜んで切り刻んでくれた。
切れない切れないと言いながらも今度は蹴られてほんの少し痛むと嬉しかった。
今までしてきたことへの謝罪と思う半分、だんだんとそれが本心であると感づいてしまい、そしてそれをも感づかれ、その瞬間自分は果てる事ができる。
「いーざーやーくーーーん」
足を振りかざしてドア前に立った瞬間、カチャリとロックが外れた。
「やぁ、シズちゃん。もしかしなくてもドア壊そうとした?」
「入るぜ」
「もう!挨拶がソレ?相変わらずだねー」
片手に袋を抱え直すと、ドアに手をやり、ぐんっと引っ張る。
臨也がよろめいた其処を通り過ぎ、乱雑に靴を脱いだ。
ずかずかと中に入って静雄は小奇麗な部屋に辿りつく。
「あいっ変わらず、神経質そうな家だぜ」
どさ、と袋をガラステーブルの上に乱暴に置いた。
「またそんなものばかり食べてるの?」
「ん」
バニラシェイクの入った雫の滴るカップを取り出し、臨也へ手渡す。
「要らないよ。俺がジャンクフード嫌いって知ってて買ってきたでしょ」
「バニラシェイクはジャンクフードじゃねぇ」
「あのね」
臨也は外の眺めが眺望出来る奥まで行き、パソコンの電源を切った。
黒光りしている裏のある携帯をポケットに突っ込み、音もなく移動する。
「ま、良いから、いつもの部屋行って」
「まだ飲んでんだよ、待ちやがれ」
「随分勝手だね。まぁ、波江は今日は運よく出してるから、ゆっくりするといい」
皮肉な笑いを静雄に向けた後、臨也は奥の部屋に入ってしまった。
俺は、何をしているのか、
充 分 に、判っている。
高校から出会い、犬猿の仲だった折原臨也とこういう関係になったのは一ヶ月前程からだ。
頼んだのは俺だった。
世界で一番嫌いな奴に俺の存在を一分一秒たりとも残らず知らしめる。
否定しながらも貪欲に、強欲に、俺という化け物を開放してくれるのも折原臨也という人間(ノミ蟲野郎)だけだと気付いた。
一杯分のバニラシェイクを飲み干した後、
甘い香りを口に残したまま、もう片方のカップを掴んで部屋に向かった。
蝶ネクタイもシャツも乱さぬまま、ノックせずに入る。
「…それ、使う?」
「好きにしやがれ」
口から甘い甘い、バニラの香り。
次の瞬間には、目の前の大嫌いな男からも甘い香りがした。
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