アンダーザローズ 2
〜秘



こいつは、嫌いの塊だ。


「最近かな、いや、違うな」

ナイフをくるくると弄びながら、見下ろしてくる。


「もう、ずっと前から、混濁している」


光の宿らない瞳で、見下ろしてくる。



「俺は、シズちゃんを」



くるっ…

ザシュ!!!



瞬時、凄まじい早さで静雄に切りかかった。
寸さで胸元の肉が少しが裂け、ズボンまでに至った。


あの時と、同じ。


高校時代、初めて口を交わしたあの時と、同じ箇所だった。



 『ほぅら、楽しいだろ?』


ザッ


臨也が馬乗りになって頬をナイフでなぞってくる。
影が覆いかぶさり、光が見えなくなる。
見えなくなって、そして、熱い舌先が忍び込んできた。



「!!!」


ガリッ


「ぉっと」
「何…しやがる!」

こし…と噛まれた下唇を手の平で拭う。

「痛いなぁ」

見開かれた目、ナイフを持ったままの右手で思い切り殴ってきた。


ガッ


「ハハハハハ!!」
「!」

殴られた方向に静雄の首が伸びる。

臨也に殴られたのは初めてだった。
いつも、殺し屋とか車とか、自分の手は汚さず煙も灰も残さない卑怯な手口で殺そうとしたのに。



 ああ、今、初めて平等なのか



「いーざーやーー…ッ!!!」
「高校から何度も殴られた俺の痛さ、判る?まだ傷残ってる部分もあるんだから」


静雄はぺっ、と唾液を吐き捨てる。
其れを見て、その中に臨也自身の血も混じっていると思うと、
臨也は身震いをした。
何故だか今はわかる。


つう


ナイフの切っ先が向かったのは、静雄の腹。
縦に引くように、冷たくなぞった。
ナイフから滴る透明の雫を、静雄は気にする余裕などなかった。


「…ってぇ!」
「刺さらないけど、切れはするんだよねぇ…不思議、ンフッ」

ネカマ言葉は彼の代名詞だ。
既に型に着いている卑猥な微笑で、
ナイフをそのまま下肢に近づけ、そして、切り裂いた。


「!」


静雄の脳裏には破ける音と共に、下らない事が脳内を巡った。
このままだとどうやって家路に着くか、だとか
此処はどうせ奴のテリトリーで場所も把握出来ないんだろう、とか

とりあえず、服を全部引き裂かれて真っ裸同然のこの状況をどうしたらいいのか。



「ねぇ、屈辱?」
「変態が…!!」
「あはっ」


からん、とナイフを投げ捨てる。
指先で、静雄の胸の飾りを摘んだ。


ビクッ


「!?」
「ナイフにね、塗ってあったんだけど」
「…ぁ、」
「熱くなってきた…?シズちゃん」


くすくす笑う臨也の声がぼやけて聞こえる。
どくどくと波打つ鼓動が、腹の辺りから全身を支配し始めていた。

静雄は結構、淡白なほうである。
セックスに身を投じる事も過去に何度かあったものの、其処まで執着はなかった。

なのに、今、乳首を掴まれただけでこうだ。
何だ?
俺の腹の上でけたたましく笑う奴は、俺に何を、なに、を



「ぁ…、あ」
「アハハ!君のそんな声、初めて聞いたよ、実に面白い!!」

最高に嬉しそうに笑う臨也。
背中を反って、摘まれた先端が赤くなっていくのを堪える。


「思い通りだ。やっと」
「て、め…」


真っ赤になった顔を見られたくなくて
目を瞑る。

身体は未だに動かないのに、快楽だけがこみ上げてくる。
世界で一番嫌いなのに、見下ろされて言葉を吐かれただけで腰が熱くなって来る事実を静雄は認めたくなかった。

「ビクビク震えてる…触ってないのに、もう硬いよ?
  シズちゃんってさ、おっきいんだね…フフ」
「!さ、さわんじゃね」

はぁ、と息の荒くなってきた臨也は、静雄の高ぶりを見て手を伸ばす。
ぐっ、と掴まれた瞬間、脳天に電気が走った。

「!!!!」
「フフ…アハハハハ!」

目を見開いて尚も擦ってくる。
そして、指先が伸び、開いた口内を乱暴に弄ってきた。
唾液が漏れて、臨也の手を濡らす。


「…ぁんv」

わざとらしく喘いで、臨也は恍惚とした笑みでその濡れた指を口に含んだ。
水音をわざとらしく出して指を舐め喘ぐ様は、静雄の下肢を更に硬くさせる。

「はぁ…興奮してきちゃった」
「臨、也…」
「目がとろんとしてる…カワイイ」

成人男性に"カワイイ"はないだろう。
そんな事を思ってもつっこむ余裕さえない。

「ねぇ、嫌いだけどセックスは出来ると思わない?」
「し、ね」
「そんな濡れた目で言われてもなー」
「死ね!」
「うん、じゃあ死ぬね」

ジャケットを脱ぎ、両手で静雄の身体を弄り始めた。

びく、と上に跳ねる静雄の身体。
臨也は舌なめずりをする。

「シズちゃん、胸弱いね」
「や…め」
「乳首ピンクなんだねぇ、アハハ!かわいーね」
「や…さ、さわん、な」

「嫌だね」

冷たい表情になった瞬間、胸に顔を埋める。
薄い舌先で包み込まれた時、生まれて初めての感覚を味わうことになった。

世界が、真っ白だった。



「ァ…!!!!は、ぁ…あ!」
「ん…ん」

片方を舌で転がされて
片方を指で弄られ
下肢には臨也の硬くなったソレがごりごりと当たっている。

震えながら凄まじい快楽に悶える。

ドクドクドクドクドク

自分のものじゃないみたいに、波打つ身体が信じられない。

臨也が上の方で笑っている。

薄暗く青白い蛍光灯が、やけに眩しくて目に染みた。
気を失って意識が飛んだのは、臨也が柔らかく頬を包み、対するかのように強く舌を絡めた時だった。

…生まれてこの方、初めてキスで達してしまった瞬間だった。


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