現実トリップ。6 | ナノ


現実トリップ。6


「…ひっ―ッ!!!」

妄想など、ただの現実逃避でしかない。
それが今、現実に目の前で、静雄の身体を持って実現している。
押さえつけられた太腿の裏には、臨也のしなやかな指先が食い込んでいた。
妄想の中よりも遥かに滑らかな感触をした彼の腕を、静雄は汗ばんだ手で掴む。

其処彼処に散乱している壊れた椅子の破片に当たってもちっとも気にならない。

「うう、ぁっ」
「…いたいって」
「いざ、や」

小さく舌打ちを零されても、自分の喉奥で息が詰まっても、圧迫と違和感に下肢が泣いても、今一つになっているという事実に静雄はたまらなくなった。
めりめりと肉を抉じ開ける感覚に痛みと合わせて更に実感する。

「全部入った」
「は、ぁ、はぁ」
「奥、凄く狭いね。本当にしたことなかったんだ」
「…も、うご、いてッくれ、頼む」

臨也はその懇願の一言に、短く鼻で笑ってから両手を床につき腰を動かし始めた。
初めての律動に、静雄は首を振り乱す。

「くっ、あ!!!ああっ」
「…凄い締め付け、これはハマッたら大変そうだなぁ」

臨也は単調な物言いをしながら静雄を見下ろしている。
どんな高級なマンションだろうが、交われば床は軋むのだと下らない事を考えながら。

密着する肌が汗と絡み、弾力のある音を奏でて興奮を誘う。

「いざっ、ぁあっ、あ、あ」
「ハハ!なんて声出すんだろうね」

ナイフは刺さらないというのに、臨也自身のことは自らひっついて来て、奥へと誘う。

(皮肉だ…)

「妄想は終わり?」
「あっ、これ、がっ…妄想で、たまる、か、どうにかなっちまう…!」
「そうだねぇ、こんな熱くして、目も醒めちゃうよねぇ…」

パンッ パン

気持ちが良い。
気持ちが良くて、頭がおかしい。


(臨也のクソ蟲野郎)


「いざや」

静雄は喉を引き攣らせて彼の名を呼んだ。
潤んだ瞳を開くと、こちらを覗き込む真紅の瞳とぶつかる。
依然と冷たい色をしていたが、どこか諦めたような様子にも見えた。

「現実の俺はどう?」
「……なッ?」
「フフ、なんでもないよ」

パン!

「あ、んッ…!こ、れ以上激しく、すん、」

小さく零した不安をかき消すように、臨也は腰を打ちつける。

「は、はげしっ、激し、無理…ぁ!!!」

暴力にも似た腰つきで臨也の欲が静雄の体内に注がれた。
同時に静雄もまた、声にならない絶頂を迎える。


首筋が伸びると皮膚が引き攣れて、脚をみっともなく開いたまま荒い息を繰り返した。

「はあ、はぁ、臨、也…ぁ」

臨也は喉で笑った。

(体勢を変える間もなく、この俺が…笑える)

「そんな声で俺の名を何度も呼ぶなんて、妄想の中では日常茶飯事だったのかな?」
「!う、るせぇ…ッ調子に乗ん、ぁ」

悔しいのに心は満たされていた。
臨也は静雄の首筋に顔を埋め、囁く。

「まだいけるよね?」
「なっ、き、気遣うんじゃねぇよ…!気持ち悪ィ…」
「別に優しさで言ったんじゃないよ」
「あっ、あ」

抜かずに静雄の中で泳いでいた臨也の下肢は直ぐに硬さを戻していた。
腰を引いて上向きに突いてやると面白いほど静雄の身体は跳ね上がる。

「んぁああっそんな早く、動く、なぁ…ッ」
「まぁ、一人で妄想する楽しみも然り、実際に二人でセックスするのも然り、別の快感があるよね」

初めてとは思えないほど感度の良い彼を見た臨也は、なんとなく簡単過ぎて呆れてしまったというのが本心のひとつだった。
そんな事を考えている内に、締め付けられる自身で何かを察する。

「俺っ、変なんだ、よぉ…!また、イきそう…なッ」
「いやいや、もうちょっと我慢しろよ。ガキじゃないんだからさ」

心底馬鹿にしても彼の身体は悦ぶだけだった。

「うるせぇ…!これでも毎日抜いてんだっ、ぜってぇ、お前のせい…だ!んぁっ」

律動を緩やかにしながら繋がったままの状態でうつ伏せにさせる。
咄嗟に振り返ってくる静雄を見下ろしながら首を傾げた。

「ああ、後ろからだと多分耐えられないんじゃないかな」

ニヤリと意地悪く笑って腰を思い切り引き寄せる。
形の良い尻がきゅっと締まり、小刻みに震えた。

「や、いや、やめろ」

静雄の中でいつかの妄想がフラッシュバックする。
組み敷かれ上から覆いかぶさる影の男たちに、激しく突き落とされる様を。
今感じている事は想像の中の感覚ではない。
実際に全身を駆け巡る快楽として静雄の思考を止め降り注いでいる。


ぐんっ


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