現実トリップ。5 | ナノ


現実トリップ。5


「…?片付けて、ねぇのか」
「うん」

長い廊下の果て、デスク前には先日出て行ったときと同じ有様が静雄の目に映った。

「…わりぃ、俺が壊したから」

まさか、ここまで壊れていたとは思っていなかった。
パーツが其処彼処に散らばっており、素足で踏めば絶対に切れてしまうだろう。
だが、背後からの声は非難ではなく、全くの都合良い誘いの言葉であった。

「続きをしようと思って」
「…え?」
「久しぶりに見せてくれるんだろ?だから来たんじゃないの」
「…俺、は」

話しかけた瞬間、臨也の人差し指が唇に押し当てられて制される。

「ね、シズちゃん」
「…っ」

臨也に耳元で囁かれると、それだけで十分なスイッチになる。
また、現実が静雄を裏切ったのだ。




拘束衣などを用意されると思っていたが、今回はそんな道具などはなく、破損したパーツが散らばるその床上で静雄は座り込み、仰向けで裸体を曝け出していた。
シャツのボタンを自分で解き、外気に触れた胸の飾りは既に硬く立っていて恥ずかしくなる。
臨也はというと、デスクに行儀悪く座って足をぶらつかせていた。

「今日はどんなシチュエーションなのかな?」

人の気も知らないで、楽しそうに首を傾げて尋ねてくる。

「…妄想、してるやつの、ただの独りよがりだ」
「…へぇ」

彼の声のトーンが低くなっても、構わず胸を弄った。
静雄は今までとは違い目は閉じず、臨也だけをずっと視ている。
シャツがずれないよう捲し上げた端を口に挟み、両手を世話しなく動かした。

「…俺の事見ながらだと妄想に集中できないんじゃない?」
「んっ、ふ…」

胸を全体的に包み込みながら揉みしだくと、自然と腰が浮いた。
喘ぎ声が漏れないように、眉間を顰めて臨也を見つめる。
代わりに唾液が溢れ、咥えているシャツが濡れた。
口を開くと糸を引いてシャツが垂れ下がる。

「目の前に…んっ、ある、男が居て…そいつが…ずっと俺の事、見てんだ」
「…」

臨也は動きを止め、ぶらつく足を床に付かせた。

「ずっと、ずっと見てて…俺の事、馬鹿にし、て言う、『まったく、救えない淫乱だ。この化け物』だ、って」
「…それで?」

冷たい声にびくりと腰を震わせる。

「はぁ…それ、で」


静雄は一旦、胸からズボンに手を移動させてジッパーを下げると、ズボンを太股辺りまで下ろした。
堅く反り返った熱いものを取り出し、掴み上げて臨也に見せ付ける。

「今日は、俺の事を、少しだけで良いから、近づいて、触ってやろうと、思ってくれてて」

臨也はデスクに手を付け、腰を上げた。

「冷てぇ目で、見下ろしながらも、仕方なく……。…臨也」

じりじりと迫り来る快楽で口までお喋りになる。
もう決めていた。
どうなってでも、今日は。

「いざ…や、が」
「都合良いねぇ、化け物の癖に」

仰向けになっている静雄の体を跨り、蹲踞の状態で見下ろしてくる。
手にはいつの間にかナイフが握りこまれており、その切っ先は臍辺りを彷徨っていた。

「…ッは!妄想なんて、そんなもん、だろ?なぁ…臨也くんよぉ」

力ない笑みを向けると、臨也の表情が僅かに曇った。
静雄は、臨也の下肢を見て目を大きく開く。

「!お前、たって、んのか…?」
「…だから?」
「だって、お前」
「不能だと思ってたわけ?失礼しちゃうな」
「んぁっ」

どしり、と静雄の堅い象徴の上に座り込むとズボン越しに擦れ、強い感覚が走った。
びくりと身を震わせる。

「服越しに擦られただけででかくして馬鹿じゃないの?」
「い、いざ、動いたら、出る」

静雄は震える身体を止めようと力むが、臨也は腰を少しくねらせた。

ぐりっ

「ああ!」

ビュクッ

「単純な奴。もしかして久しぶりだった?」
「はぁ、はぁ…クソッ」

自分の腹の上が白濁に塗れていることに、舌打ちを零した。

「!!」

それよりも、静雄は自らが放った白濁が臨也の黒いズボンの股にも飛んでいる様を見、後頭部から言い様のない快感がじわりと広がっていくのを覚えた。
見開いた目が臨也を視界一杯に映し出す。

「こんなことでイッてたら、俺の相手務まらないよ?」
「……な、ん?」

(今、何を。)

「実際に交わらないという所に甘美で優雅な快楽というものが存在するんだ、わかる?つまり視覚による、物理的ではない悦楽が其処には在って、綺麗なまま汚い欲望を手に入れる事が出来るという意味だよ」

「俺は…ッ」

「人間を愛する俺だって性欲はあるさ。だからと言って、種の単位で愛している人間に性交を求めたいとは思わない。俺は常に上で視ていたいからね」

ペラペラと、鬱陶しい奴だ。
なのにもう、この男への気持ちはそれを裕に超えてしまている。

「そう、思っていた。のにね…君の所為で、何もかもめちゃくちゃだよ」

臨也は悔しそうに僅かな微笑を零しながら、自身のズボンに手を掛けてジッパーを下ろした。
静雄とはまた違う色をした、堅く反り返るそれを手に取り、外へ解放する。

「…ッい、ざ」
「初めてだね、俺のを君に見せるのは」
「な、なにす」
「視て視られだけじゃ満足できない、欲張りが行き着いた結果だよ。死ぬほど味わって、死ぬほど感じれば良い」

静雄の放った欲を指に絡め取り、そのまま何度か臨也自身に塗りたくる。
擦りあげると粘着性の音が静雄の鼓膜を犯し、今から起こることを予測し身体中の血がドクドクと波打った。

「い、いざや、良い、のか?」
「えー、今更…待ったはなしだよ」
「ち、ちげぇ、そうじゃ、ねえ」
「俺の性癖を変えた代償は払ってもらうよ。期待していいんだろ?」

先端が、狭い後孔に宛がわれて抉じ開けられる。
それが引き金か、静雄の目頭が酷く熱くなった。

「あ、あ」
「慣らしてはあげない、痛みと共に、俺を感じれば良い」
「別に、い、い!」

(はいって、くる)

静雄は首を反った。
皮膚が伸びて、喉仏が息を呑むたびに上下する。
後頭部辺りを駆け巡るざわついたその感覚が、ずっと待ち望んでいた結果だと身体中が叫んだ。


ああ…

―現実に、入ってきた。


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