そのままで(綾竹)
「喜八郎」
「あ、そのままでいてください」
「はい?」
綾部が先程から視線を外さずにこちらを見るものだから、なんとなくこそばゆくなって竹谷は口火を切った。
そうしたら、この返答。
美術の授業ではないのだから、そのままでいろ、なんて無理な注文である。
「あのなぁ…喜八郎」
「あーあ、動いちゃった」
なんの話だ。
綾部の言うことが本当に分からない竹谷は、ずんずん綾部に近づいていった。
「動くなとか…無理だろ」
「だって〜」
「なんだよ」
「だって、さっきの先輩の顔の角度、スッゴいかっこよくて好きなんですもん」
「な!?」
真顔でそんなことを言う後輩にどきまぎした…なんて嘘だと言い張りたい。
「でも今の角度は駄目ですね」
「……………お前なぁ…」
やっぱり嘘。
前言撤回させてくれ、と竹谷は願った。
- 13 -
[←] | [→]
←