小説 | ナノ
そのままで(綾竹)


「喜八郎」

「あ、そのままでいてください」

「はい?」



綾部が先程から視線を外さずにこちらを見るものだから、なんとなくこそばゆくなって竹谷は口火を切った。
そうしたら、この返答。
美術の授業ではないのだから、そのままでいろ、なんて無理な注文である。



「あのなぁ…喜八郎」

「あーあ、動いちゃった」



なんの話だ。

綾部の言うことが本当に分からない竹谷は、ずんずん綾部に近づいていった。



「動くなとか…無理だろ」

「だって〜」

「なんだよ」

「だって、さっきの先輩の顔の角度、スッゴいかっこよくて好きなんですもん」

「な!?」



真顔でそんなことを言う後輩にどきまぎした…なんて嘘だと言い張りたい。



「でも今の角度は駄目ですね」

「……………お前なぁ…」



やっぱり嘘。
前言撤回させてくれ、と竹谷は願った。




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