小説 | ナノ
RAINY DAY2(くく竹)



あ…れ?


竹谷は訳が分からなかった。俺は何をしていたのか。


気がついたらさっき通ったはずの路地にいた。


「俺…確かトラックに…」


思い出しただけでヒヤッとした。冷や汗が背中を伝う。

けれど…


「怪我もしてねーし…夢か?」

ふと見やると、水たまりがあって…
おたまじゃくしがいた。


「やっぱ夢か〜…なんつーリアルな……」


ポケットを触ると…竹谷は寒気が走った。ポケットの膨らみに手を突っ込むと、


「と…けいだ」


夢の中で拾ったはずの綺麗な時計があった。
竹谷はよくよく考えてみると…この時計はその夢で初めてみた物だ。第一、時間軸がおかしい。おたまじゃくしをドブに投げ入れた後に拾ったはずなのだ、この時計は。


「うわ…なんだよ…怖いなぁ…」


まさか。

一瞬有り得ない考えが浮かんだ竹谷だったが、そんなはずはないと頭を振った。
でも…
竹谷はまたおたまじゃくしをドブに投げ入れると、いつも通りの道を歩いた。
そして曲がり角を曲がろうとして、一旦足を止めた。

ら…


「…ま…じか」


目の前をあのトラックが走り抜けていった。


「…っ!」

竹谷は怖くなって、傘を差すのも忘れて一目散に家に帰った。












「おはよ、はっちゃん」
「兵助、おはよう」


これが数日前の話。
あれからアレコレ考えた、あの晩だけ。竹谷は考えても仕方ないということ、手に入れたコレを有効活用すること、という結論に至った。


俺は兵助とたわいもない話をしていた。もちろん、あの時計は見せていない。どこで手に入れたの、なんて聞かれたら嘘をつける自信がない。


「はっちゃん、どうかした?」
「ん?なんでだ」
「はっちゃんが上の空だったから」
「そっか?」
「うん、話聞いてよね」


膨れっ面なのは久々知兵助。兵助とは勘右衛門を介して友達になった。兵助が人見知りなのか、打ち解けるまでに時間がかかった。けれど、今では仲が良くなった。俺としてはとても嬉しい。


「はっちゃん最近朝早いよね」
「ぅえ!?あ…、そうか?」
「うん、遅刻魔だったのに…人が変わったみたいじゃないか」
「…んー…まぁ朝何回も起きてるし」
「何回も?」
「あ、いや、なんでもねぇ!じゃあ、俺急ぐわ!」
「あ」


竹谷は足早に学校へと走った。まだ急ぐ時間でもないのに、と久々知は笑った。





「はっちゃん、嘘が下手だなぁ」


クスリと笑うと、カバンを持ち直してまた学校へと足を進めた。




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