昨日から本当に色々なことがあったと思う。今、自分がこうして落ち着いていられるのが奇跡とも考えられるレベルだ。せっかくの休みをいただいたのだから、今日は家でゆっくりしよう。とにかく、今は何も考えたくない。明日仕事へ行けば、どうせリドウさんが有り難くも溜めてくれた仕事に終われるのだから、せめて今ぐらいは。そう考え、ベッドへと倒れ込む。


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「…………」

気づくとずいぶん眠ってしまっていたようで、窓の外はもう暗闇に覆われていた。なんとなく、あの分史世界の一件があってから、この夜というものにはどうも感傷的な気分になってしまうようだ。…選ばれた者だけが生まれ持つ、懐中時計にそっと目をやる。時計の針は一秒一秒を、大切に刻んでいく。母親が、この時計を隠したがっていた理由が少しわかったような気がした。恐らく、母はこの力について知っていたのだろう。今まで義兄も、このことを知っていてなお、何も言わなかったのだろう。…多分、義弟は私と同じように何も知らずに日々生活しているのだ。私の母、義兄の母、そして義弟の母は皆若くしてその命を失っている。私の親も、骸殻能力を使っていたのだろうか。…いくら別のことを考えようとしても、結局頭の中はこのことでいっぱいだ。

「お腹、空いたな……」

昨日のにぎやかな食事が嘘のようだった。義兄は義弟にこんなことを隠して、あんな風に笑っていられるような人なのか。私も、性格は良くない方だと自覚しているけど、だとしても…他人の世界を壊しながら、自分だけが幸せに暮らすだなんて、そんなことはとても耐えられない。…そんなことを思うのは、私がまだ若いからなのだろうか。リドウさんだって、会ってまだ間もない人だけれど、そのようなことをしていて正気を保っていられるなんて不思議で仕方がない。この二人だけではなく、分史対策室にはもっと多数の人間が、日夜問わず世界を壊して回っているというのだから恐ろしい。
…ぼんやりと呆けていると、GHSに一本の電話が入った。

「…はい?」
「ああ、ピナ。昨日大丈夫だったか?兄さんから聞いたんだけど…」

着信の相手は義弟からであった。先日の出来事を心配して電話してきてくれたのだろうか、非常に気の遣えるできた義弟である。流石に義兄が全てを話しているわけもないし、ぼかした返答しかできないのがとても残念だが、一人で何もない時間を過ごしているよりは余程有意義である。

「ごめん、心配かけちゃったかな」
「気にするなよ、やっぱり俺がちゃんと送っていけばよかったよな」
「ああいや、ルドガーくんにそこまでさせちゃうのは悪いし…」
「まあ、兄さんに洗い物なんか怖くてさせられないんだけどな」

流石義兄、相変わらず家事の方はてんで駄目な様子が伝わってくる。今日の彼の様子と打って変わった普段の彼を思い出して、くすりと笑いがこみ上げてくる。やっぱり、この兄弟は、ユリウスさんは。

「ピナ、平気なのか?」
「え、うん。大丈夫だよ…」
「…そっか、ならいいけど。ってもうこんな時間か、仕事あるのにごめん!明日兄さんから渡すものがあるって言ってた、それじゃ!」

彼らしいというかなんというか、どうやら彼の好意に甘えてしまったようだ。時計は既に23時を指している。明日は今日の分の仕事もあるのだから、少し家を早めに出勤するぐらいが丁度良いだろうか。早く出る分には構わないのだが、家に帰るのが遅くなるのはあまり良い気持ちではない。義兄の渡し物が非常に気になるところであるが、どうせ明日になればわかることなのだから。



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10/03
リドウ夢とは

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