「ねえ、ピナさんがユリウスさんの従妹ってほんと?」
「そうねえ…従兄ってよりは、割と兄みたいなものだけど」

やっと女子らしい会話を昼休みに行うことができて正直ほっとしている今日この頃。そうだ、私が求めていた平和な日常とは、こういう何気ない時間を過ごすことであって、世界を救うために自らの命を削ることではないのだ。そんなものに夢を見るほど、私は若くないし度胸もない。生涯で何かを成し遂げようなんて大層な希望は持ち合わせていない、ただただ、平穏な生活を送れればそれで私は幸せだ。同僚の女の子と他愛もない話をしながら、私は思う。

「楽しそうだな、ピナ」

噂をすればなんとやら。従兄は私の幸せなランチタイムを阻害するかのようにやってきた。彼が悪いということは全くないのだが、如何せん分史世界のことが頭をチラついてしまう。無残に殺された姿を想像してしまい、若干の倦怠感を覚えてしまうのだ。義兄は何も悪くないというのに。
昨夜の義弟の話から、何か私に渡すものがあるというのは分かっている。その内容は決して明るいものではなく、クランスピア社の内面に関わるのであろう。分史対策室の近くまでやってきたあたりで、やはり私の気分も悪くなる。

「…今まで、黙ってて悪かったな」
「あ、いえ…話されても多分、信じられないでしょうし…」

そう言って、従兄は懐から黒匣のようなものを取り出した。見たことのない形状である。彼はGHSの開発に携わるぐらいの人なのだから、これもきっと何かそういう類のものであると思った。しかし、それはどうやら、そのようなレベルのものではないらしい。

「これは、擬似精霊術を使うための黒匣だ。…精霊術は、知ってるか?」

また壮大な話に!これ以上変な知識を私に植え付けるのはやめてください!
私の叫びも虚しく、従兄は精霊術について説明を始める。聞いてないのでこれ以上は話さなくていいですよユリウスさん。

「…つまり、リーゼ・マクシアの人間が用いる、算譜術のようなものですよね」

理想郷と謳われたリーゼ・マクシアの存在さえ、私には程遠い存在なのに。私達の住むエレンピオスとは断界殻を隔てた先にある、別の世界。そこでは精霊を犠牲にする算譜術とは異なり、人々が精霊と直接契約を行うことで、術を使用すると言われている。どんなものにも、犠牲は必要であるこの世界と比べると、そこは理想郷と言われるだけあって、人間と精霊が共存する素晴らしい世界なのだろう。
…とにかく、結論から言えばこれはお守り代わりに持っておけばいいらしい。従兄なりの気遣いなのだろう。気遣いどころか、私の心に更なる重荷が積み重なっただけなのではあるが、従兄はそういう面において非常に疎いのだ。一応感謝はするが、このような話にあまり関わりたくはない。

「…念のため聞いておきますけど、その擬似精霊術とやらって私にも使えるんですか?」
「おそらく、使用自体は可能だろう。…俺は使えなかったが」

それってつまり私使えないですよね!本当にお守りレベルのものになってしまっている。いや、逆に擬似精霊術なんて訳の分からないものを使い始めたら本当に日常生活に戻れなくなってしまう。だったら、いっそこの方が良いではないか。そう、そうに決まってる。


「…それと、最後に」
「何でしょう」
「………早いうちに、自分の身を守れるようになった方がいい」

先程までよりもさらに険しい顔で、従兄はそう告げた。意味はよくわからなかった。しかし、何故だかその発言は、とても私に刺さったような気がした。


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11/21
だからリドウ夢って何
後擬似精霊術と算譜術は多分同じ意味だけど分けてますわかりにくくてごめんなさい!!

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