「……リドウさん、どうかしましたか?」
「いや、少し気になることがあったんでね…」

気になること、とは。リドウさんの個人的な興味関心に付き合うほど私は暇ではないのだが。
血の付いたジャケットは脱いだとはいえ、若干その独特な香りがする彼の身体からできるだけ離れようとするが、それに気づいたリドウさんはわざと私に顔を近づける。ダークラムのような瞳は、私を逃がさまいと捉える。後ろへと身じろぎすると、手首を握られて動きの自由を制限された。

「ちょ、あの…!何する、んですか…」
「なあ君、クルスニクの一族について何か知ってることは?」

伏目がちに私を睨む。状況が状況ゆえ、彼のことを怖いと思うよりは、その端正な顔が私の目の前に迫っているということに対する危機感の方が大きかった。細身の彼からは想像もつかないような強さで、私の手首は押さえつけられる、痛い。しかし、その痛みや血の香りも気にならなくなるような彼の瞳は、私にある回答を期待しているようだった。

「……リドウさんやユリウスさんが、話した以上のことは知らないですよ」
「ふーん、へえ…なるほどね。まあ君がこの状況で嘘をつけるとは考えにくい」

クルスニクの一族というのは、私達を指す言葉であり、骸殻契約の機会を与えられた集団だ。それ以上でもそれ以下でもなく、私はそれ以外について知る由もない。
観念したのか、リドウさんも私の手首から手を放す。手袋上からであったのに、跡がくっきりと見える程度には力を込められていたらしい。手が折れたらどうしてくれるつもりなのだろう。

「…どうした?顔が赤くなってますが、お嬢さん?」

恐怖と羞恥、しかし後者が大きく上回っていた私の顔は、わかりやすくも赤く染まっていたようだった。指摘されればさらに顔に熱が集中する。何とも性質の悪い人だ、女性の扱い方というものを存分に理解しているというか、その上でこうも尋問を与えてくるとは、恐ろしい。

「……何でもないです。私は仕事があるので失礼しますね!」
「おいおい、君の仕事場は俺の仕事場でもあるんだが」

……失念していた。分史対策室に戻ろうとすれば、彼も分史世界を破壊した報告を上部にしなくてはならないらしい。頬の赤色は引く様子もなく手を使って隠そうとしたが、それも十分に滑稽な絵面であろう。

「リドウさんって、意地悪ですよね」
「いやいや、俺なんかユリウスに比べたら」
「ユリウスさんが…?」

どんだけこの人義兄のこと嫌いなんだろう。

「君はユリウスに育てられたようなもんだし、知らないかもしれないけど」
「な、なんですか」
「ま、あんまり奴を信用しすぎないことだな。今に捨てられるぜ?」

彼の話すユリウス・ウィル・クルスニクとは、私の知る義兄とは違う人物であるかのようだった。当然、義兄だって人間なのだから好きな人と嫌いな人に対する態度が違うのも無理はない。しかし、そんなことでは測れないような。この二人の距離感に私は一歩たじろぐ。

「…リドウさんとユリウスさんって、何でそんなに仲悪いんですか」
「君は知らなくても良い」

ぴしゃりと、話を専断された。人の事情には土足で上がりこんでくる癖にこの始末である。…別に、彼が義兄をどう思っているかなんて私には関係ないのだが、こうも会うたび義兄の話を引き合いに出されるのも癪なのだ。
どうにも、リドウさんはなんだか掴めない。これからこの人のサポート職にまでつかなくてはならないというのに、前途多難である。


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12/05

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