「お帰り。あら、副室長はそのまま退社?」
「らしいです…」

結局、リドウさんが何がしたかったのかよくわからなかった。クルスニクの一族についてどうたらこうたら、とは言っていたものの、答えた通り私は義兄や彼から聞いた以上之情報は持っていないのだ。しかも、二人とも断片的な知識だけで、私の頭の中では上手く整理できない、個別の内容が漂っている。つまるところ何なのか、いや、結論は分史世界を破壊しろってことなんだろうけれど。

「副室長が上がったなら、今日はそんなに仕事もないし上がっちゃっていいわよ?」
「え、大丈夫ですか…?」
「平気平気、分史対策室は休めるときに休んどかないと!」


そうこういうわけで、無事仕事は終わった。それはそれでいいのだが、私は今後の事もふまえて、少し知っておかなくてはならない事が多すぎるのだ。あの二人ではあてにならない、もっと近い存在の人から聞きださなくては。

「あの、すみません。少し、分史世界について教えてもらっても良いでしょうか…?」
「あはは!確かにそうだよな。ユリウスさんもリドウさんも話してくれなさそうだし」
「いやあ、本当にその通りなんですが…」

分史対策室のエージェント達は、意外にも友好的だった。この環境だけ見れば、それほど医療エージェントの方々とも変わらない。人を救うか人を殺すか、仕事の内容にもちろん差異はあるものの。

「世界を壊すって言ってもね、何百回もすれば慣れちゃうものよ」
「あんま気分の良いもんでもないけどなあ。それでも、これは俺達にしか出来ない仕事だし」


ピーッ!と警報音。新たな分史世界が検出された音であるようだ。先のエージェントは話していた時とうって変わって、仕事モードに戻る。その姿は、私が仕事へ向かう時のような顔だった。そこには迷いや不安は全くなく、あるのは決意だけ、そう感じられた。

「ご、ご武運を」
「ありがとう、それじゃあ行ってくる」

この男性の姿を見る事が出来るのは、もしかしたら今が最後であるという可能性だってある。ただ見ている事しかできない私が、少しもどかしく感じられた。でも、私は。


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12/05
モブしかいない

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