「おはよう、ピナコラード」

何日か経過して、それ以降はあまり変わり映えのない日を過ごした。
鬱々とした気分が晴れるはずもなく、私はクランスピア社へ向かう。同僚には酷い顔だと言われた。無理もない、こちらは昨日人を殺めているのだ。残念ながら、分史世界の人間を殺したことを正史世界の人間が知る由もない。だから私は今もこうして逮捕されることもなく出社しているのだ。エントランスのエレベーターを待っていたところ、そこにタイミングよく現れたのはリドウさんだった。私の顔を見るなり笑ってくるこの人に、誰が好意的な印象を持てるだろうか。

「おいおい、クラン社の新入社員は上司に挨拶もできないのか」
「……おはようございます、リドウさん」
「O.K。それでいい」

嫌味ったらしい挨拶の促進に、苛々としながら答える。何故この男はそんなにも楽しそうなのだろうか。私が人を殺したことを喜んでいる素振りまで見えるのだ。そこまで歪んでいるのか、分史対策室の人間は。

「まあそう怒るなよ。社長からお前に2つもニュースがあるんだぜ」
「……なんですか」
「良いニュースと悪いニュースだ、どっちから聞きたい?」

意地の悪い笑みは、その双方がろくでもない内容であることを既に伝えているかのようであった。いったい誰によって良い・悪いが選別されているのだろうか。そんな選択を与えられても、どうせ私に拒否権なんてない選択ということは痛いほど分かっているのだ。まあでも、悪い方から処理していきたい。今以上の絶望なんてないと思うけど。

「ふうん。まあ悪い方はお察しの通りだが、君にはこれから分史対策室のエージェントも兼任してもらう」
「……そうなりますよね」
「次いで良いニュースだが、君は今日から俺の秘書だ」

は。
…多分、開いた口が塞がらないというのはこういうことなんだと思う。それぐらい、訳の分からないニュースだった。分史対策室のエージェントだとかなんだとか、そんなもの軽く吹っ飛ぶぐらい訳が分からない。秘書、秘書って何。しかもリドウさんのって!

「えぇええ………」
「社長に感謝すると良い。俺の秘書なんかなりたくてなれるもんじゃねえぜ」
「い、いや…私別に秘書に興味は……」

というより医療関係の仕事に就きたくてこの会社に入ったのだ。なぜ秘書なんて務めなくてはならない。そもそも、秘書の資格とか持ってないし。医療エージェント兼分史対策エージェント、その上リドウさんの秘書。オーバーワークにも程がある。

「残念だが決定事項だ。俺も君みたいな小娘を秘書にする気はなかったんだが」
「じゃあリドウさんから社長に伝えて下さいよ…」
「……俺も社長には逆らえないんでね。まあ精々役には立ってくれよ。とりあえずこれ分史世界の資料」

大量の書類を手荒く渡して、彼は去ってしまう。レジュメにさらっと目を通してみれば、見えるのは分史世界破壊の報告書だとか、クルスニク一族がどうとかこうとか。気が遠くなるほどの情報とともに、私は今日も仕事に励むことになりそうだ。



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11/28
リドウがアップを始めました

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