初潮

今日は何だかお腹と腰が重いな、と感じていた。心なしか体も怠く何をするにしてとも億劫だった。風邪でも引いたのだろうかと思っていたのだが、ふと腰を上げて立った時に足に生温い何かが伝う感覚。

「え…?」

困惑の声を上げて、着物をたくし上げて見れば血が伝っていた。どこか足を怪我したのだろうか。しかし痛みはない。思い当たりのない自分の体の不具合に混乱するばかりである。重いと思っていた腹はギュウと絞られるような鈍い痛みに変わっており、顔を顰めた。

「なに、?」

どういう事?血が出ている所を見てみれば、怪我ではなく己の股間からであった。サァと見事に血の気が引いたのが分かった。自分は死ぬのだろうか、と思い日が暮れるのと同時に外に出た黒死牟を呼ぼうと玄関に向かった時、スパンと勢いよく開かれ今し方助けを求めようと思っていた本人が立っていた。

「黒死牟!」
「血の匂いが…する。怪我を…したのか。」

それで急いで戻って来てくれたのだろうか。
彼にしがみつき、必死に今の自分の状況を伝える。

「ど、ど、どうしよう!あ、足の間から血が、怪我してないのに、。死ぬの?私。」

私の言葉を聞いて、少し驚いたように6つの瞳を開いた黒死牟が優しく私の頭を撫でた。

「初潮か…。」
「しょ?」

玄関先で裸足で突っ立っていた私を黒死牟が優しく抱え上げてくれて居間へと運んでくれた。
そしてテキパキとお湯を用意して、替えの浴衣も準備する。その間にもズキズキと痛みが酷くなるお腹を抱え私はその場に蹲った。

「お腹…痛い。」
「大丈夫だ。死には…しない。」

着替えだ。脱げるか?と言われ黒死牟が後ろを向いてくれている間に汚れた物を脱ぎ、用意してくれた新しい浴衣に袖を通した。血で汚れた足を桶に入ったお湯に布を浸し拭っていく。そして股の間から流れる血は、大人になった証なのだと黒死牟は教えてくれた。これから毎月来るものなのだと。お腹が痛い、と言えば明日町におりて薬を買いに行こうと言ってくれた。
血は流れ続けるので布を下着の間に入れ固定する。詳しくは明日町に降りた時に馴染みのあるばば様に聞こうと思った。

「痛むなら…横になっておけ。」

敷かれた布団の上に寝て、痛む腹を抑え丸くなる。こんなに痛いなんて。こんなのが毎月来るなんて耐えられない。いつか慣れるのだろうか。ウンウンと痛みに唸っていると優しく頭を撫でられる。布団から顔を上げれば近くに黒死牟が座っておりジとこちらを見下ろしていた。
撫でられていた手を握る。

「ずっと手、握ってて。」
「ああ。」

ぎゅと握り近くに座っていた彼の方に身を寄せた。何故か分からないが、無性に寂しくなり人肌が恋しくなった。

「黒死牟。黒死牟。」
「ここに…いる。」
「添い寝…して。」

お願い、と言えば布団をめくり私の横へと体を滑り込ませた。引き寄せられ、大きな体に抱き込まれる。どうしようもなく安心して彼の胸元に擦り寄り着物の裾をぎゅと握った。スルリと頬を撫でられ顔を上げれば、おでこに口付けを落とされる。大丈夫だ、と安心させるかのように優しく背中を撫でられ、不安や寂しさで、無性に荒んでいた心が落ち着いていく。ほ、と息を吐き、お腹の痛みもマシになっているような気がした。

「ありがとう。」

そう言って彼に身を任せ、ゆるりと目を閉じた。


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