幸せを見つける

現パロ



行き交う人々は心なしが浮き足立っているようで、陽が落ち暗くなった街には木々に付けられたイルミネーションが明かりを灯し始めていた。
吐き出す息は真っ白で、寒さから守るように顔をマフラーに埋め、待ち合わせの場所へと早足に向かっていると鞄の中に入っていたスマホが軽やかな音を立てて振るえた。
彼女は自分より一足先に着いたみたいだ。

終業式だった今日は、明日から学校が休みである。しかし、生徒達が居なくとも年末まで片付けなければならない仕事は山積み。来年度の授業日程を作らなければならないし、作成しなければならない資料だって山程ある。
だが、しかし、自分と同じように仕事に追われている同僚には悪いが、今日だけは残業が出来なかった。

事前に予約していた店にプレゼントを受け取る為に寄っていたら少し遅くなってしまったみたいだ。
煌びやかな商店街の真ん中に堂々と存在感を放つ大きなクリスマスツリー。そこには前世から大切で大事な愛おしい彼女が、寒空の下手を擦りながら立っていた。

「すまない!遅くなった!」

驚いたように顔を上げた沙月は煉獄と目が合うと、花が咲いたように満面の笑みを浮かべ彼の元へと駆け寄った。
杏寿郎さん!鈴が転がるような可愛い声が鼓膜を揺らす。会えた事の嬉しさを隠しもせずに抱きついてくる小さな体を難なく受け止め、冷え切った白く冷たい手を握った。

「随分冷えているな。待たせてすまなかった」
「いえ!全然大丈夫ですよ。お仕事お疲れ様です」 

刀を握り固くなった手の平とは違い、以前に比べ、随分と細く柔らかくなった指を絡ませ愛おしい恋人との逢瀬を煉獄もまた心を躍らせた。

個室でチーズフォンデュが出来るという若い子に人気のお店を予約し、彼女を連れて行けば案の定とても喜んでくれた。食べ放題プランの為、煉獄自身も大満足である。目を爛々と輝かせながら、楽しげに料理と煉獄をパシャパシャと写真を撮っている彼女の姿を頬を緩ませながら眺めた。
ああ。幸せだと、どうしようもないくらいに心を締めつけた。
今、彼女が自分の手の届く距離にいて、触れる事が出来て、共に生きる事ができる。前世では、己に連り付きながら泣き叫ぶ、今よりも幼い沙月が最後に見た姿だった。煉獄自身、自分が下した判断、決意には一切の悔いはなかった。弱き者は守るべきた。若い芽を守り切った事も決して間違っている筈がなかった。
しかし、彼女の事だけが心残りだったのだ。
最後に少し話をしよう、と声をかけ、自分の意志を受け継いでくれるであろう優しい少年に全てを託した時、たった一つ心残り、最後に思い浮かんだのは沙月だった。こればかりは少年に託す事は出来ない。
力尽きる最後、共に列車に乗っていた沙月がこちらの状況に気付き駆けつけた。血が溢れ、真っ赤に染まった地面を見て彼女の顔から血の気が引いていた。唇を噛み締め、溢れ出さんばかりの涙を溜めた瞳が煉獄を映す。ああ。保たない。彼が死んでしまう。全てを悟った彼女は声を上げて泣いた。煉獄さん!煉獄さん。いや。いやいや!いやです!逝かないで。置いていかないで。
悲痛な叫び声が遠くなっていく耳にも届いた。すまない。そう言って頭を撫でる力さえ残っていなくて、最後の力を振り絞るように顔を上げ、笑った。
好きだ。君が好きだ。今までありがとう。

継子になってくれて。慕ってくれて。

もっと沢山伝えたい事があったが、それを口に出す事なく己の命は燃え尽きた。

今日の最後に訪れた、夜景が見える小さな丘に2人寄り添い佇んでいた。空には無数に広がる星が宝石を散りばめたように輝いている。

そろりと横に立っている彼女の滑らかな白い頬に手を伸ばし引き寄せ、柔かなその唇にそ、と口付けた。何度もしている筈なのに頬を真っ赤に染め上げる彼女があまりにも可愛らしくもう一度唇を少し強引に奪った。
愛おしい。何よりも誰よりも大切で大事な人。
今世こそ、君を自分の手で幸せにしたい。

「俺と結婚してくれないだろうか。君と共に人生を歩みたい」

用意していた指輪を彼女に差し出した。
目を見開きぼろぼろと大きな涙を流す沙月に慌てていると、縋り付くように抱きついて来た彼女を受け止める。

「私で、良ければ、喜んで!」

ありがとう。ありがとうございます。杏寿郎さん。大好きです。

ずっと、ずっと昔から。

その言葉に、俺もだ。と返せば彼女は泣きながら破顔したように笑った。

今世こそ、君と共に人生を歩みたい。



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