溶けてしまいそう

真っ暗な闇に包まれ、静まりかえった夜中にガシャン、と何かがが割れたような甲高い音が耳に届いた。半分夢の世界に微睡んでいた意識から、引き揚げられるようにぱちりと目が覚める。
音の大きさから、自分の部屋から然程離れていないようだ。
よもや、この屋敷に盗みに入るような輩は居ないと思うが。訝しげに眉を潜めた煉獄は自室から出て、音の鳴った方へと向かえばそこは台所からであった。微かに洩れている明かりに、目を細めながらひょこりと顔を覗かせれば見慣れた小さな背中が視界に入る。

「沙月。」

どうしたのだろうか。寝付きでも悪かったのか。少し音量を抑えた声で名前を呼べば、ゆらりと気だるげに彼女は振り返った。

「煉獄…しゃん。」

随分と呂律がおかしい。そして微かに香る酒の匂いに、眉間に皺を寄せた。

「酒を飲んだのか。君は未成年だろう。」

何をしているんだ、と言う前に口を噤む。彼女はそんな軽はずみな行動をするような人間ではない。己の継子である沙月は至極真面目な人柄であった。優しく、努力家で素直で真っ直ぐな子だ。
もしかしたら、夜中に喉が渇いて水を飲む筈が間違えて父上の残した酒を飲んでしまったのかもしれない。

「よもや。」

ふらふらと足取りが覚束ない沙月は顔も真っ赤である。頬は上気して目も潤んでいた。
余程、酒に弱かったと見える。

「沙月、こちらに来なさい。」
「ん、…あい。」

素直に煉獄の言葉に頷いてよたよたと近寄ってくる沙月の腕を掴んだ。転ばぬようにと気を利かせたつもりが、沙月は何を思ったのかぎゅと正面から抱きついて来た。遠慮なくぴったりと密着した体に柔らかなものが胸に押し当てられる感触に煉獄は思わず息が詰まる。

「んふ、ふふふ、煉獄、さんだ。」

すりすりと首元に擦り寄る沙月から溢れる息は熱く、微かに酒の匂いがした。

「むぅ、これはいかんな!」

ガ、と半端強引に沙月を横抱きにした煉獄はスタスタと廊下を早足に歩き出し彼女を自室へと放り投げようとしたが、襟元を掴んだ沙月の手は離れない。

「こら、離しなさい。」
「や!です、」
「いやじゃない。」

煉獄の手で掴めば、ぐるりと一周してしまえる程細い沙月の手首を掴み離そうとするが頑なに掴んで離れない。離れたくない、といやいやと幼子のように首を振る沙月に煉獄は困ったように眉を下げた。
少し乱れた胸元から豊満な胸の谷間がのぞいており目の毒だ。直そうにも場所が場所なだけにむやみに触れられない。
これは困った。

「煉獄しゃん、れんごく、しゃん。」
「どうした。」

ん、ん、と背伸びをしてこちらに腕を伸ばしてくる沙月に首を傾げながら腰を折り視線を合わせてやると、中々な強さで首に腕を回され顔を引き寄せられる。突然の出来事だった為、何一つ抵抗する事が出来ず、己の唇にむちゅ、と押し付けられた驚く程柔らかなそれは、沙月の唇だった。
ゆっくりと離れていく沙月の顔を唖然と見ていると、彼女はうっそりと笑った。

「ふふふ、やわらかーい。」

ね、も、いっかい、
そう言って再び遠慮なく唇を重ねられ、ちゅ、ちゅ、と可愛らしい音を立てて何度も繰り返されるその行為。
一体、何が起きているのいうのだ。
あまりの衝撃で、固まっていると、ペロリと今度は舐められた。

「君は、!何を、」

今度こそは止めなければ、と思うと再び強引に唇を奪われる。沙月は煉獄の首の後ろに回した腕に力を入れた。
はむ、と甘噛みされたり何度も角度をかえて重ねられる沙月の柔らかな唇の感触に煉獄は、己の中の何かがプチリと切れたのが分かった。
微かに開いていた沙月の口を割り開き、舌を滑り込ませる。口内は熱く、溶けてしまいそうだった。

「ん、っ、は、んん、」

くぐもった声を上げるも、随分と気持ち良さげに舌を絡めてくる沙月に煉獄はくらりと頭が揺れた。衝動的に細い腰を掴み、己に引き寄せる。
腕の中に閉じ込めるように抱きしめ、深く口づければ沙月は縋り付くように煉獄の着物を握りしめた。

は、とお互い熱い息を吐き唇を離せばツゥと銀の糸が繋がる。
酸欠気味に浅く呼吸をする沙月は顔が火照り、大きな瞳は潤んでおり長く接吻していた唇は赤くなり腫れぼったくなっていた。

「は、ん、、きもち、いい。」

ずくり、と疼くような感覚が下半身に走る。

「も、っと、もっと、ください。れんごくさ、」

ああ。これはいかん。駄目だ。酔っ払いの戯言だと分かっていてもキレてしまった理性の糸は戻す事が出来なかった。

求めるように伸ばされた沙月の手を絡み取り、優しく布団に押し倒した。


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