気づいていないのは本人達だけ

同期である目の前の少女からはいつも炭治郎と同じくらい優しい音がしていた。優しく、しなやかな強い音。意思の強そうなキリリとした目元は彼女の在り方を表しているかのようだった。
はきはきと話すその姿も彼女の師範である炎柱の煉獄さんを連想させる。

秋が瞬く間に過ぎ去り、少し冷たい風が頬を撫でる季節がやってきた。先日の任務で鬼の毒を受け、手足の痺れがひどいので蝶屋敷にお世話になっている善逸は機能回復訓練にも未だ参加出来ず、友人達である2人も任務でここには居らず、暇を持て余し縁側に座りぼーとしていた。するとひょこりと見慣れた顔が善逸の顔を覗き込んだ。

久しぶり、と柔らかく笑う沙月に思わず情けない程に顔が緩む。
沙月ちゃあぁぁああん。と衝動的に彼女の細い腰にしがみつけば、驚いた顔をしながらも、しょうがないな、と眉を下げて笑みを溢す沙月に善逸は真っ赤になりながら少し嬉しそうに笑った。

よっこいせ、と声を出しながら沙月は善逸の隣に腰を下ろす。彼女もまた、善逸と同じく任務先で怪我をして蝶屋敷を訪れたらしい。
炭治郎と伊之助は元気か、と聞いてくる沙月に善逸は彼女に会うまであった出来事を沢山話した。それを楽しそうに聞く沙月にもそちらはどうなのかと聞けば、話す彼女の話題は日々共に暮らす煉獄さんが8割を占めていた。任務帰りに寄る甘味屋の団子が美味しいのだと、さつまいもを食べると、わっしょい、と毎回叫ぶのだと、至極楽しそうに笑って話す沙月に善逸も自然と笑みを溢した。そして、彼女から微かに聞こえる普段とは違った軽やかな弾むような音に耳を傾ける。

足をぶらぶらさせながら楽しそうに喋っている沙月に相槌を打ちながら、言葉を交わし2人で笑い合っていると聞き慣れた音が複数こちらに近づいてくるのに気がつく。2つはいつも共に行動している炭治郎と伊之助。そして、もう一つは、煉獄さんだ。

「沙月!」

びりびりと空気が揺れてしまいそうな程大きな声に善逸は目を白黒させながら声の主の方へと目を向ければ、煉獄さんがこちらに向かって来ていた。そしてその後ろには友人の2人の姿もある。
名を呼ばれた沙月も嬉しそうに彼に返事をして、煉獄さんの方へと手をぶんぶんと振っていた。

そして、彼女から聞こえる心音にぱちくりと目を瞬かせる。先程とは打って変わって、少し早鐘になり鈴が転がるような音が鳴っていた。
ああ。これは。
そう気付いてしまって、少し驚いたように沙月を見れば、ばっちりと目が合った。すると彼女はぼっと頬を赤らめ視線を右往左往と揺らし出し、明らかに動揺している。
きっと自分の表情が分かりやすく出ていたのだろう。

ぜ、善逸は耳が良かったもんね。。
気付いちゃった?
と恥ずかしげに頬を染めながら聞いてくる沙月につられて善逸も顔を真っ赤に染め上げた。

「ご、ごめんね。あまりにも分かりやすい音だったからさ。で、でも、誰にも言わないからね!」

何故か善逸の方がワタワタと慌てていると、人差し指を口元に当てて沙月は少し悪戯っぽく笑った。

「内緒だよ。」

ふふ、と笑みを溢しながら煉獄さんと同じ羽織翻し、彼の元へと駆けて行った。

恥ずかしげにしながらも嬉しそうに煉獄さんに頭を撫でらている沙月を見ていると、ぱ、と視線を上げた煉獄さんと目が合う。ぐるぐると渦巻きのようになっている色素の薄い瞳は、しっかりと善逸を捉えており無意識に背筋が伸びた。
そして、煉獄さんから聞こえてくる音は些か物騒なものだった。これは確実に己に向けられているものだ。

先程の沙月とのやり取りを見られていたのだろう。

嫉妬と独占欲が綯い交ぜになった音が善逸の鼓膜を揺らしていた。

善逸、煉獄さんに何かしたのか?と鼻の良い炭治郎が訝しげに聞いてくる。

やってらんないよ、とけっと言えば、炭治郎はますます分からなくなって首を傾げた。

何だ。
両思いじゃないか。

自分から視線を外して、優しげに沙月を見下ろす煉獄さんからは真っ直ぐ彼女に向けられた、こちらが恥ずかしくなってしまいそうになる程の愛おしさと恋の音がしていた。

あの2人からは同じような甘い匂いがする。煉獄さんも沙月もお互いが大好きなんだな。と無邪気に笑う炭治郎に、そうだね、と呆れたように笑いながら頷いた。

prevnext


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -