戯れる

この間、蜜璃ちゃんが美味しい甘味屋に連れて行ってくれた時に話してくれた事をふと、思い出した。兄弟が沢山いるらしく小さな子達と遊ぶ時にくすぐりを良くするのだと言う。
今は縁側に腰かけ、師範である煉獄さんとさつまいもを頬張っている。わっしょい、わっしょい、と嬉しそうにさつまいもを食べている煉獄さんを横目に、ちらりと彼の脇腹を見やる。ちょっとした悪戯心が芽生え、彼が焼き芋を食べ終えたのを確認してからわきわきと手を動かした。
私の可笑しな行動を見ながら、不思議そうに首を傾げる煉獄さん。

「失礼します!」

とりゃ、と言う風に煉獄さんの腰を掴んで指をわちゃわちゃと動かしてでこしょばすが、硬い。そう硬いのだ。想像していたものと違い、あれ?と思いながら煉獄さんを見上げれば表情一つ動いていなかった。

「こそばくないんですか…?」
「うむ!」

もう一度、指を動かしてみるが微動打にしない。面白くない。笑い転げてくれるかと思ったのに。

「煉獄さんは効かないんですね。」

むー、と口を尖らせながら掴んでいた手を離そうとすれば、ガシと両腕を煉獄さんによって掴まれた。

「え、?」
「俺には効かないようだが沙月はどうなのだろうな!」

少し楽しそうに、ゆるりと細められた瞳に嫌な汗が背中に伝う。

「わ、わ、私も効きませんよ!」
「やってみないと分からないだろう。」

そう言って問答無用で腰を両手で掴まれた。私が反応できる速度じゃなかったので、煉獄さん大人気ないと、愚痴れば、余裕そうだなと、ゆるりと口の端が上がった。
彼の大きな手は私の腰を一周してしまいそうであり、余す事なく脇腹をくすぐった。ばらばらに動く指にびくんと体が面白い程に跳ねる。あ、これば駄目だと思った。ぞわぞわと全身に駆け巡る感覚にジタバタと暴れる。

「うひゃ、っあはははは!」

だめ、だめです、と言うも解放して貰えず、くすぐり続けられ逃げるようにバタンと、後ろに倒れても煉獄さんが上から覆い被さって来て腰から手を離して貰えない。

「あっ、はははは!やぁ、はっ、ん、あっも、もう、だめです、て、」

息絶え絶えになりながら、はあはあと荒く息をしていると急にピタリと煉獄さんの動きが止まった。
顔を見れば、口を一文字にして微かに顔が赤くなっている。どうしたのだろうか。

「兄上、沙月さん…。!」

丁度、ここの廊下を通ろうとした千寿郎くんの姿が見えた。私達に声をかけたのだが不自然に彼の言いかけていた言葉が詰まり、たちまち顔を真っ赤に染め上げた。

「し、失礼しました!」

バタバタと来た道を駆けて戻って行く千寿郎くん。

「待て!誤解だ!」

バッと私の上から引いた煉獄さんは千寿郎くんに向かってそう言うが、彼の背中はすぐに見えなくなってしまった。本当になんだったのだろうか。
よもや、よもや。と言いながら口元を自分の手の平で覆いながら、私から視線を逸らす煉獄さんに首を傾げる。
くすぐり地獄からやっと解放されて、よっこいしょと、上半身を起き上がらせて自分の姿を見てから絶句した。くすぐられて暴れた所為で、膝丈のスカートは下着が見えるくらい、めくり上がっていたのだ。太ももどころか全てが丸見えである。

「ひゃ!」

慌ててスカートを直した。

「す、すまん。」

見てない、と言いはる煉獄さんだが私から背ける顔は真っ赤で説得力がなさ過ぎる。
私も同じように真っ赤になった顔を手の平で覆い項垂れた。

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