我慢をしているのはどちら

現パロ



初めて会った時、ポロリと涙がこぼれた。
胸を締め付けるような痛み共に愛おしが溢れ出す。高校の入学式に彼と出会った。2度目の出逢いだった。

校門前に咲き乱れる桜が散り、強く吹いた風に煽られ舞い上がる。乱れた髪の毛を耳にかけ視線を上げた時、こちらを凝視する琥珀色の瞳をした男性と目があった。遠目からでもすぐ分かる派手な髪色に特徴的な枝分かれした眉。
お互いがお互いを認識し、目を見開いた後やんわりと笑った。
ああ。彼も覚えている、と確信した。

「初めまして、ではないですね。お久しぶりです。煉獄さん。」

変わらず太陽のように笑う愛してやまない彼の腕に飛び込み、抱きついた。

1度目の人生で儚くも激しく燃え盛るようにその命を散らした彼と奇跡的な出会いを果たして早1年。
私は高校2年生になっていた。あの後すぐに前世のように再びお付き合いが始まったのだけれど、この時代では先生と生徒。大人と未成年。決して周りが快く受け入れて貰える関係ではなかったのでバレないようにと細々とお付き合いをしていた。
昔の私達も同じよう恋人でありお互いに今よりも自由に触れる事が出来て人目を気にせず彼の隣に居る事が出来たのに、今は制限ばかりでがんじがらめである。継子であった為、尚更毎日側に居られたし日々の生活にずっと彼が居た。けれど今はそれが許されない。もっと、触れたい。触れて欲しい。抱きしめて欲しい。キスをして欲しい、と思ってしまう。けれど彼は先生で、その立場故に私がせめて学校を卒業するまでは手を出さない、と言った。
その言葉に少し悲しげに表情を曇らせば、煉獄さんは困ったように笑った。昔よりもずっと大人びた表情で、私はそれ以上何も言えなくなった。
触れたいのだ、抱きしめて欲しいのだ、言いたかったけれど口を噤むしかなかった。

なので私は、たまたま廊下ですれ違った時に煉獄さんの指にスルリと触れてみたり、沢山の女の子に囲まれている時どさくさに紛れて後ろから抱きついてみたりと、日々の我慢の鬱憤をちょこちょこと彼に触れる事によって発散していた。

今日も1人で何かの資料を持ちながら廊下を歩いている煉獄さんを見つけて彼の後ろを追った。運が良ければ、手くらい繋げるかな、なんて淡い期待をしながら距離を詰めて行く。すると資料室の方へと入って行ったので、これ幸いとばかりに同じように入ろうとした瞬間。力強く腕を引っ張られ部屋の中へと引き摺り込まれた。

がちゃん、と鍵をかける音がやけに響いて聞こえた。

「れ、煉獄さん?」

学校では決して彼から触れられる事がないのに、私は強く抱きしめられていた。少し戸惑いながら顔を上げれば、少し怒ったような表情をしている。やはり、駄目だったのだろうか。はー、と溜息をついてから私の頭を大きな手の平が優しく撫でた。

「気持ちは分かるがやめなさい。誰が見ているか分からないんだ。」

分かってる。分かってる、そんな事。
でも好きなのだ。どうしようもないくらいに。私を置いて先に死んだ貴方には分からないだろうけど、愛しいを人を亡くしたあの心が引き裂かれるような痛みを。もう触れる事も触れてもらう事も話す事も貴方の顔を見る事さえ出来ないのだという現実を受け入れなければならなかった私の気持ちを。どれほど辛かった事か。どれだけ願っても焦がれても、貴方に会えなかったあの絶望を死ぬまで味わい続けなければならなかった苦痛を。

今、目の前には生きている煉獄さんがいるのだ。触れる事が出来る、彼が。

頭を撫でていた煉獄さんの手を取り自分の頬に持ってきて、擦り寄った。

「触れたい、と思うのは私だけですか?」

今世でも変わらず美しい金色の瞳がゆらりと揺らいだ。よもや、と小さく呟いた後、深い溜息を吐き私の頬に触れていた手が後頭部に回り強く引き寄せられた。

「んっ、」

重なった唇。
何度も角度を変えて軽く口付けられ少し苦しくなって口を開いた瞬間、煉獄さんの舌が待ってましたと言わんばかりに滑り込んできた。深い深いキス。舌を絡みとられ吸われ、カクンと腰が抜けて崩れそうになる体を腰に腕を回され支えられる。確かに煽ったのは私だけれど、こんなに枷が外れたかのように唇を貪られると思っていなかったので驚きを隠せなかった。

「んっ、んっは、んっ、」


口内を余す事なく蹂躙され、逃げれないようにしっかりと後頭部に手を回されている為、煉獄さんの好きなようにされるがままだった。飲みきれなかった唾液が口の端に伝う。
ゆっくりと唇を離され、私を見下ろす熱の篭った瞳には真っ赤になりながらトロンと蕩けた女の顔が映っていた。止める間もなくするり、とカッターシャツの中に手を入れられ誰も触れた事のない二つの丘に手がかかった。

「あっ、」

柔らかさを堪能するかのように優しいけれど容赦なく揉まれながら、シャツのボタンを上から順に外されていく。下着が見える程外された所で手が止まり、煉獄さんの顔が首元に埋まる。首筋に舌が這い、ちゅ、ちゅ、と肌を吸われていく。

「きょ、きょうじゅ、ろうさん。」

つい昔の癖で、彼の名前が口から溢れた。すると、ピタリと煉獄さんの動きが止まった。

「あまり煽ってくれるな。我慢しているの君だけじゃないんだ。」

そう言いながら、もう一度私の鎖骨辺りに強く吸い付くと真っ赤な花びらを咲かせた。

触れたい、とは思っていたけれど自分が想像していた以上のものであった為、私の頭はパンク寸前であった。真っ赤になりながらはだけたシャツを手で押さえて、煉獄さんを見上げれば私の知らない艶やかな笑みを浮かべていた。一気に体温が上昇するのが分かった。
欲の孕んだ彼の瞳を直視出来る事が出来なくて顔を逸らせば、クツクツと喉を押し殺したような笑い声が聞こえた。

「学校を卒業するまでにちゃんと覚悟しとく事だな!」

君が卒業したら、俺は待たない。

そしてもう一度、少し強引に唇を奪われた。

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