疲れた時には

夜中にパチリと目が覚めた。外はまだ薄暗く日は昇っていない。ひんやりと冷え込む空気にぶるりと体を震わせながら、まだ温もりが残る布団から這い出て人が動く気配がする隣の部屋へと足を運んだ。微かに開いている襖の間をしょぼしょぼする目を擦りながら、そっと覗く。
ぼんやりと光る明かりと見慣れた師範の後ろ姿が見えた。こちらに背を向けて何か物を書いている様子が伺える。きっと報告書だろう。こんな夜中にまで仕事があるなんて、お体は大丈夫だろうかと心配になった。
ここ最近、師範の任務が激務である。柱である以上他の隊士よりも仕事量も鬼の討伐任務も多いのだが今回はいつもに増してである。きっと鬼の活動が活発なのであろう。

「沙月。」

落ち着いた静かな声だった。けれどシンと静まり返るこの空間にはよく響き、思わずびくりと体を揺らす。

「そこにいるのだろう。寒いからこっちに入ってきなさい。」

そろ、と襖を開けて伺うように覗けば、師範がこちらを見て薄く笑みを浮かべながら手招きをしていた。外よりも少し暖かい部屋に足を踏み入れ、手招きをしている師範の元へと向かい、隣に腰を下ろした。

「すまない。起こしただろうか。」
「い、いえ!たまたま目が覚めてしまって。」

久しぶりに見る彼の顔は少し疲れが垣間見える。決して弱音を吐かない人だ。疲れていてもそれさえ見せない人が、私にさえ気付いてしまうほど、僅かな違いだがやつれているように見えるのだ。
心配になりへにょりと眉が下がるのが分かった。

「すまないな。最近君の稽古を見れずにいて。」
「だ、大丈夫ですよ!」
「うむ。俺が任務でバタついている間に階級も一つ上がったみたいだな。」

文に書いて送ったものを読んで頂けていたのか。よくやった、と言う風にわゃわしゃと頭を撫でられ、顔が綻んだ。
師範の机には整えられてはいるが山積みになっている文があり、まだ未読の物が沢山あるのが分かる。本当にお忙しい方だ。この中に私の文がどこかに混じっているのだろう、と思っていのに読んで貰っていたとは。嬉しかった。

私の頭を撫でている彼の手を握った。
急に手を取られた師範はきょとりとこちらを見ている。

男が疲れた時はな、胸を揉むと癒されるんだ、と音柱である宇随さんの言葉を思い出した。何故そのような会話をしたのかは覚えていないが、その言葉がとても印象的に残っていたのだ。
少しの気恥ずかしさもあるが、私の胸なんかで癒されて頂けるのなら是非とも揉んでもらいたい。彼の任務を替わる事なら替わりたいが、私の実力では当分無理なのだ。せめて、疲れを癒やすくらいなら、と思い自分よりも大きな熱い手の平をぎゅっと握った。

「沙月?」

少し困惑している師範に向き合うように座る。

「あの、もう片方の手も貸して頂けますか?」
「うむ。構わないが。」

膝を合わせて、向かい合う。
何をするのだ?と言う風にこちらを見る師範にニパと笑いかけ、自分の胸へと押し付けた。
刀を振い何度も潰れた豆、鍛錬し鍛え固くなった大きな手の平が胸を覆う。その上から自分の手を重ねて力を入れれば師範の指が私の胸に食い込んだ。

「…!」

師範が固唾を飲むのが分かった。すぐに手を引こうとする彼の行動を私の手が力を入れて抵抗すれば、更に彼の指が胸に埋まりムニュと揉まれる。

「き、君は、何をしているんだ?」
「あ、あの先日宇随さんと任務をご一緒した時に男性が疲れて時は女性の胸を揉むと癒されるのだと仰っていたので…。師範、最近お疲れでしょう?」

だから、どうぞ、と言えば彼がピシリと固まった。あれ?と思い、想像していた反応と違いコテンと横に首を傾る。
ギョロと開いた時折どこを見ているのか分からない彼の瞳がいつもより見開かれており私を凝視していた。

「あ、あの?」

はぁーと深い溜息を吐き、顔を俯かせた師範。
何かいけなかったのだろうか。それとも私の胸が小さくて駄目だったのだろうか。オロオロしているとガバと顔を上げた師範がにっこり、とそれはもう綺麗すぎるような笑みを浮かべた。

「そうだな!ありがたく癒してもらおうか!」

スルリと、何の躊躇もなく、寝巻きの合わせ目から手を入れられてムニュと直接触られ、今度は私が困惑する番であった。

「んひゃっ、う…え?し、しは、ん。」

先程まであちらが躊躇していたと言うのに、今は私がタジタジである。肌蹴られた胸元は、ギリギリ見えはしないが中々際どい所まで乱れていた。耳と首、顔まで真っ赤になるのが分かる。ふにゅふにゅと柔い胸を揉まれ、ささくれた太い師範の指が生っ白い胸に食い込んでいる光景があまりにも卑猥に見えて思わず顔を逸らした。

「んっ。」

そして時折悪戯するかのように胸の先を指が掠め、少し伺うよう師範を見上げれば、ん?と何でもないかのように返事が返ってくるので何も言えずに真っ赤になって黙り込むしかなかった。変な声が出ぬようにと口をぐと噤む。

「恥ずかしいのか?」
「う、え、はい…。」
「君が言い出した事だろう?」

それはそうなんだけれど、何か違う。何か違うのだ。顔が真っ赤になり一杯一杯と言う風に見上げれば、クスリと笑われ片手が頬に添えられゆるりと優しく撫でられる。同時に師範の顔が近づいて来て肩に埋まり首筋を舐められたかと思うと、カプリと噛まれた。

「ひぇ、」

トンと軽く押し倒され、私に覆い被さる見た事もないような師範の顔と天井が視界に映る。
驚きと混乱であう、あうと言葉にならない呻き声をあげていると、師範はニッコリと笑った。それは、もう良い笑顔で。

「君には剣術以外にもちゃんと教えねばならん事があるな!」

両手を頭の上で一纏めにされ、際どく肌蹴け、見えている胸の谷間の間をツウと指でなぞられ、足の間には師範の体が入り込んでおりこれもまた足も太ももまで浴衣が捲り上がり際どい。
私は色々と間違ったのかもしれない、と悟るが後の祭りである。
シュルと帯を抜かれる音が、静かな部屋に響いた。

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