恋に落ちる音がした

空に登った朝日に照らされ、燃え上がる炎のような彼の後ろ姿を忘れる事が出来なかった。
家族を殺されその牙が自分にも襲い掛かろうとした時だ。爆音を轟かせその場に現れ、救世主のように私を助けてくれた。まだ柱にはなっていなくて今よりも少し幼さを残した彼の横顔が鮮烈に記憶に焼き付いている。

天涯孤独になった幼い少女が1人になった時、生きていかなければならない為に選択する道は限られている。その少ない選択肢の中で、修羅の道を選んだ。
どうしても、もう一度彼に会いたかった。ただ会いたかったのだ。何かを伝えたい訳でもなかったけれど会いたかった。あの炎のような彼に。
長かった自慢の髪の毛を男の子のように短く切って、吐くほどつらい鍛錬を育ての元で1年修行した。死にかけ、生死を彷徨ったけれど最終選別を生き残り剣士の道を歩み始めた時だ。3回目程の任務で利き腕を怪我し使い物にならなくなった。
絶望した。けれど嘆く悲しむのは、家族を失った時に散々した。もう惨めったらしく泣くのも蹲るのもしない。きっと、あの彼ならそんな事しない。
また会える希望はある。
そうして私は隠になった。

塵になり消えていった鬼が残した衣服の回収や、怪我をした隊員の処置を行なっていく。その中で疲れを一つも見せず凛と立つ彼の後ろ姿を眩しそうに目を細め眺めた。
私の管轄が炎柱様の所だった時は心底驚いた。幼い私を助けてくれたあの青年が柱になっていたのだ。

日が登り美しい横顔が朝日に照らされる。日本人離れした色素の薄い髪の毛、琥珀色の瞳。
会いたくてたまらなかった彼がすぐ近くにいる。けれど私は話しかけても良い立場じゃない。あちらが気づかない事を良い事に、ジと眺めているとぐるんと首が周り綺麗な澄んだ瞳と目があった。

私を見据えながら、ズンズンと距離を縮めてくる彼に驚きで咄嗟に足が動かなかった。
ピタと手前で止まり、グイと顔を近づけられ覗き込まれる。ずっと遠くで眺めていたガラス玉のような彼の瞳が目と鼻の先。 

「いつも俺の事を見ているだろう?」

目を真ん丸に見開く。

「え、あ、う、、。気づいていらして。」
「流石にあんな熱い視線を毎回向けられたらな!」

私はそんなに見てしまっていたのか。彼を眺めている自覚はあったけれど、熱い視線だなんて。
そもそも柱であるこの方が素人の視線に気付かないなんてあり得ない。なんて浅はかな考えだったのだろうか。

「す、すいま…せん。」

あまりの恥ずかしさと居た堪れなさで顔を伏せると、顔にかかっている布をひょいと下げられた。

「うむ、やはり可愛らしい!」

表情を隠せる事が出来なくなり。りんごのように真っ赤になった顔を彼の前で晒してしまう。どこを見ているのか分からない、怖い、と良く言われている彼の瞳は綺麗だ。透き通るような琥珀色に奥は赤く、美しい。何も言えなくなって真っ赤な顔で挙動不審になっているとニッコリと普段の凛々しい顔とは反対に可愛いらしく笑われたので、胸がギュンと変な音を立てた。より一層に顔が熱くなる。

「この後何か予定でもあるか?」
「い、いえ。」

ブンブンと顔を横に振ると、大きく暖かい手の平が私の手首を掴んだ。

「なら決まりだな!今から甘味屋に行くんだが付き合ってもらおう。」
「え、え?どして。」
「君の事が知りたいからだ。」

登りはじめた朝日に照らされて、眩しいほどの笑顔が向けられた。

「わ、私も貴方の事が、知りたいです!」

恋に落ちる音がした。

果たしてどちらのだろうか。

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