これから先、ずっと共に

ホクホクと湯気が立ち上がり炊きたての米には艶があり共に混ぜ込まれたさつまいもが美味しそうにあちこちに頭を出していた。隣にはさつまいも汁も並んでおり、目の前に座っている師範はいつも以上に目を開き周りに花が飛んでいる。余程嬉しいと思われ、その光景に思わず頬が緩む。隣にいる千寿郎くんも同じように暖かい目で師範を見て口元に笑みを浮かべていた。
今日の夕飯の買い出しに行くと、秋と言う事もありさつまいもが安く売っていたので思わず沢山買ってしまった。大量のさつまいもを両手で抱え屋敷に戻る途中、きっと師範は喜んでくれるだろうと思っていたがここまでとは。
今日の夕飯には力を入れた甲斐があった。

いただきます、と3人揃って合掌。

「うまい!うまい!」

さつまいものほのかな甘さが口一杯に広がる。確かに美味しい。
うまい、うまいと連呼しながら合間にわっしょい!と聞こえ隣にいる千寿郎くんと顔を見合わせ、笑った。
幸せそうに目を細め美味しそうに口一杯にさつまいご飯を詰めている師範を見てこちらも幸せになる。何よりも自分が作ったものをこんな風に食べて貰えるのは嬉しい。今日は任務もなく久しぶりに腕によりをかけて作ったのだ。

「喜んで頂けて何よりです。」
「本当にうまい!」
「今日の夕飯は全て沙月さんが作ってくれたんですよ。」

千寿郎くんの言葉に片手に茶碗を持ちながら、師範はピタリと食べるのを止めた。目力のある大きな瞳でジッとこちらを見つめてくる。

「沙月は良いに妻になれるな!」

師範の言葉に思わずびっくりする。そんな事を言われるとは思っていなかったのだ。少しの気恥ずかしさもあり頬が熱くなるのが分かった。

「いや。でも私を貰ってくれる人なんていませんよ。」
「どうしてだ!」
「世の中の男性はお淑やかな女性が良いのでしょう?私はどちらかと言うと正反対ですし、なによりも体は傷だらけですから。」

少し寂しげに笑った。傷がある事が決して悲しい訳ではない。鬼殺隊に居る以上、避けられない仕方のないことでもあるし、私自身然程気にしてはいなかった。しかし、嫁に貰ってもらおうと思うとやはり自分が世の男性にとって受け入れ難いものである事は重々承知していた。
家族を鬼に惨殺され天涯孤独の身。自身で暖かい家庭を築く事に憧れを抱いていたのだがやはり難しい事だと悟る。

「なら煉獄家に嫁いできたら良い!」
「え?」
「え?」

隣の千寿郎くんからも驚きの声を上げているこの人は何を言っているのだろう、と目が点になる。しかし当の本人は変わらずもぐもぐと美味しそうにさつまいもご飯を食べている。

「え、えーと?せ、千寿郎くんとはそんな関係になる予定はありませんよ…?」
「む?何を言ってるんだ。俺の所に決まっているだろう!」

驚きの連発である。目を白黒させ、顔が真っ赤になた。千寿郎くんも何故か同じように顔を赤くしてわたわた慌てている。

「え、え?」
「む?嫌だったか?」
「いやいや!そんな事ないです!」

嫌とか嫌じゃないの問題の前に、師範は私の事が好きだったのだろうか。あまりにも唐突で脈絡がなかったので頭は大変混乱している。

「え、あの、私なんかで良いのでしょうか。」
「君が良いんだ!」

ひぇと思わず変な声が出る。

「すまん。こういう事はちゃんと言わないと駄目だな!」

「俺は君の事を好いている!直向きに努力出来る所、心優しく弱い者に寄り添う事が出来ること、料理が上手い所も意外とはっきりと物言える所も全てが好きだ!何よりも君の笑顔が好きだ。いつも笑っていて欲しい。」

「いつ死ぬかも分からない。君を悲しませてしまうかもしれない。自分勝手なのは重々承知している。だが、これからの人生俺と共に歩んでくれないだろうか。」

言っている事はとても真剣な事のなのに師範の右手には茶碗、利き手にはお箸を持っている状態で思わず笑ってしまった。本当にこの人らしい。
そういう所も含めて、この方が大好きなんだけれど。
恥ずかしいくらいの熱烈な告白。顔も耳も首まで真っ赤にしながら、満面の笑みでうなづいた。

「私でよければ。」

夕飯を済ませた後、いつか渡そうと思っていたんだ、と言い美しい簪を渡された時は嬉しさのあまり思わず涙がこぼれた。自分にこんな幸せな事が訪れるとは思っていなかったのだ。実際、女性としての喜びも家庭を築く事も半分諦めていたので、尚更である。ぼろぼろと溢れる涙を師範のささくれた指先が私の頬を撫で拭う。
目の前の彼は、今まで見た事がない程暖かい笑みを浮かべていた。
自然と引き寄せられ、間近に迫った師範の顔。抗う事なくゆっくり瞳を閉じた。


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