心休まる場所

縁側に座っている見慣れた師範である煉獄さんの後ろ姿を見つけた。 今日は彼の背中にはいつも背負っている滅の字はない。大きな柱に寄りかかるように体を預けピクリとも動かない事からもしかしたら寝ているのかもしれない。
足音を忍ばせ、ゆっくり近づく。顔を覗けば想像通りの穏やかな寝顔で思わず頬が緩んだ。煉獄さんは珍しい着流し姿である。天気の良い緩やかな暖かい時間、サワサワと静かな空間に木々が揺れる音だけが心地よく耳に響いた。
自身も隣に腰を下ろし煉獄さんの肩に頭を乗せる。それでも起きる気配はない。目を閉じふ、と口元を緩め笑った。
唐突に幸せだな、と感じたのだ。いつも張り詰めている糸が切れたように、心が穏やかだった。
昼夜問わず鬼を狩る日々。家族を惨殺されてから鬼を殺す事しか考えずがむしゃらにここまで生きてきた。運が良く、炎の呼吸に適正があり階級もそこそこ上にあったので師範である煉獄さんの継子にして頂いた。その頃からだろう。悲しみと苦しみ、絶望で荒れて果てていた私の心はみるみるうに癒された。弱い者は消して見捨てず、太陽に明るくひたすらに真っ直ぐ前を見据え迷いなく進み続ける煉獄さんに救われた。彼の隣に居られる事が私の生き甲斐であり幸せであった。

しかし彼はどうだろう。世の為人の為、弱き者の為、己の命と心を絶え間なく燃やし続ける彼が身も心も休まる時はあるのだろうか。

スースーと規則正しい呼吸が聞こえる。お昼の用意が出来ていたので呼びに来たのだけれどもう少し寝かせといてあげよう。こんな風に無防備になっているのは本当に珍しい。最近も任務続きだったのでお疲れであったのだろう。どうしても継子である私は彼の代わりには慣れない。大量にある業務もこなす事も出来ない。少しでも力になれたらと思うのだけれど実際はほんの少しである。
非番である今日くらいは一日好きに過ごして欲しいと思った。
預けていた頭を上げて体を離そうとした瞬間、隣にあった煉獄さんの体がこちらに倒れてきた。驚きで支えてようとするも自分よりも大きな体を受け止める事が出来ず、そのままポスリと煉獄さんの頭が私の膝に乗った。
所謂、膝枕というものになっている。
恥ずかしさで顔が真っ赤になるのが分かった。

「あ、あの…。煉獄さん…。」
「む…。」

短い返事をしただけで、上から引く気はないみたいである。腰に腕を回されぎゅうと抱きしめられる。ピクンと体が跳ねた。全集中の呼吸常中が乱れたのが分かった。それを元に戻そうにも恥ずかさと緊張でワタワタしていると、ふ、と膝の上で煉獄さんが笑ったのが分かった。
これは確実に起きている。

「煉獄さん起きていますでしょう。」
「むう!ばれていたか!」

隠す気もなかったでしょうに。
コロンと仰向けになりこちらを向いた煉獄さんにクスリと笑みをこぼす。

「しょうがないですね。あと少しですよ。」

ゆっくりと頭に手を乗せ思ったよりも柔らかい髪の毛をくしゃりと撫でた。
少し驚いたように目を開いてこちらを見ていた煉獄さんだが、私と目が合うといつもように快活に笑うではなく目を細め暖かく穏やかな笑みを浮かべた。
キュウと心臓を締め付けられるような感覚に陥る。この人もこんな風に笑うのだ。

「ありがとう。」

そう言って再び瞼を下ろし目を瞑った煉獄さん。私は視線を外に移し、庭に植えている桜の葉が青くなっている事に気がつく。空は高く青い、風も丁度良いくらいに暖かく春から夏にと変わりゆく季節の合間を感じながら自身もゆっくりと柱に体をもたれさせ緩やかに過ぎる時間に身を任せた。

私の隣が貴方にとって少しでも心休まる場所でありますように。

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