一狩り行こうぜ
「ねえ…お昼どこで食べる?」
午前最後の授業が終わり、隣の席の彼女に話しかける。
「昨日は体育館裏で食べた」
「随分湿っぽいところで食べたんだね…」
まあまだ転校して二日目で校内もよくわからないだろうし、周りの好奇の視線に耐えられなかった結果だろう。
「じゃ、屋上行こ…ゲームもそこでやろう。あそこなら教室ほど人いないし」
そこまで言うと、彼女はぽかんと口を開けていて、その真意がわからず首を傾げる。
「…なに?」
「あ、いや、えと…一緒に食べてくれるの?」
その返答に今度はこちらが口を開ける番だ。
その彼女の表情はあまり変化はないが、心なしか嬉しそうだ。
「いいよ、俺基本的に一人だし」
そう言ってリュックを背負うと、彼女も慌てて立ち上がり荷物を持つ。
その姿を確認して教室を出る。
昨日よりは周りの視線は気にならなかった。
廊下に出ると昼休みなだけあり、人で溢れていて、そこを縫うように並んで歩く。
流石に廊下に出ると目立つなあと隣でのんびり歩いてる彼女に歩幅を合わせる。
改めて隣にいるその子を見下ろすと、その背の低さに少し驚いた。
金髪と銀髪はただでさえ周りの目を引き、好奇の視線が嫌な彼女の気持ちがよくわかった。
屋上に着くと人もまばらで、人気の少ない処に腰掛け、お弁当をお互い広げのんびり空を見上げながら食事を進める。
特に会話はないけれど、不思議とこの静かな時間は落ち着く。昨日出会ったとは思えない空気感だ。
もう少しで食べ終わる所で、ちらりと卵焼きを頬張る彼女を見て口を開く。
「そういえば…」
「?」
そう切り出せば、小動物の様に頬に食べ物を詰めた彼女は、こちらを見て首を傾げた。
「名前で呼んでいい?」
昨日の今日だが、俺としてはこの子と仲良くなれる気がするし、すごく良い関係になれそうで、もしそうなれたらクラスで過ごす時間ももう少し楽しくなるかもしれない。
それを考えて、もう少し距離を詰めておきたい所だ。
俺もそうだけど、この子の性格的に、今のままだと恐らく余所余所しさというのはなかなか抜けないんじゃないかと思っている。
彼女は口に食べ物が入ってるので、声に出さないがこくこく頷いて仄かに笑っていた。
俺に似てると思ってたけど、一歩踏み込めば意外にも表情豊かなのかもしれない。
少なくとも俺よりは。
「なまえ、改めてよろしくね」
そう言うとなまえはごくんと喉を鳴らし、少し視線をさ迷わせた。
「なんか、友達みたい…」
そう改めて言われると、何故かこちらまで照れくさくなる。
「もう友達…でしょ?俺の事も名前で呼んでよ」
出来るだけ優しい声色でそう答えれば、なまえはぴっと背筋を伸ばし目を細めた。
「…友達、こちらこそよろしく…け、け、けけけけ研磨」
「何でそこで噛むの」
「男の子、呼び捨てにしたことないんだもん」
初々しい返答に、小さく笑うと、丁度お互いお弁当箱が空になったことに気付く。
リュックからPSPを取り出し電源を入れると、見慣れたタイトル画面が映り、それにつられる様になまえもPSPを取り出し立ち上げた。
「じゃあやろうか、集会所1にいるから」
「押忍、研磨先生」
「なまえ武器は何?」
「太刀とガンランスが多い」
集会所に入り、装備を整えているとなまえがログインしてきた。どうやら太刀で行くみたいだ。
「クエスト貼っといたから。罠は俺持っていくね」
「ありがと」
いつも1人でやっているゲームだが、今日はボタンを押す2人分の音がすごく新鮮だ。
クエスト開始の音が鳴り、"NOW ROADING"の文字が浮かんだのを確認してからちらりとなまえを見れば、楽しみなのかうずうずしていた。
このレベルのクエストは、ベースキャンプからのスタートではなく、各々バラバラのエリアに飛ばされる。
「あ、研磨、目の前にいた」
「え…」
その声を聞いた直後、敵と遭遇した時に流れるBGMが耳に届き、なまえがペイントボールでマークをしたお陰で場所がわかりそちらへ向かう。
隣からはタイミングよくザシュッという斬りつける音が聞こえるが、音からして上手いな、と純粋に感心した。
「あ、いたいた」
暫くマップの移動を繰り返していると、なまえが敵と闘っていた。
「研磨先生おねしゃす」
「さっきから何なの、その研磨先生って…」
呆れながらも手は休めない。
「俺は頭壊すから、なまえは尻尾切って」
「了解致しました」
畏まった口調に思わず笑いそうになったが、敵の攻撃を避けつつ尻尾を切りにかかるなまえが操作するキャラを目で追い自分も攻撃を続ける。
カチャカチャと、PSPのボタンの音が響く。
「研磨、その武器麻痺属性なの、羨ましい」
「なまえも作りなよ、重宝するよ」
「うんー…あ!やった!切った!尻尾切れた!」
「早かったね、こっちも頭壊したよ。エリア変えたら罠張ろうか」
「やっぱ2人だと早いねー」
なまえはゲームになると饒舌になるのだろうか、さっきまでの雰囲気と違い、何というか元気だ。
それは煩わしいものではなく、居心地は良いくらい。
もしかしたら元来彼女は明るいのかもしれないな、なんて考えていたら、敵がエリアを変えた。
「なまえ上手だね…驚いたよ」
「研磨だって流石だよ」
ペイントを頼りに逃げた敵を探し出し、寝ている下に罠を張る。
すかさずなまえが催眠玉を投げ、無事捕獲終了。
画面に映る"QUEST CLEAR"の文字。
「お疲れ様」
「お疲れ様」
それを確認すると同時にお互い口にした言葉に顔を見合わせて笑った。
「紅玉でた?」
「んー、と…あ!でた!出たよ!」
画面をこちらに見せて笑うなまえは本当に嬉しそうで、こちらまで嬉しくなる。
「良かったね、もう一回行く?」
「うん!」
スマホで時間を確認してから尋ねると、すぐ様返事が返ってきた。
そしてまた2人でゲームの世界に吸い込まれるのだった。






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