風に揺れるキャメル色
昼休み、教室で夜久と飯を食ってると海がはやってきた。
「黒尾、これゴールデンウィークの日程表。今日体育館整備で部活ないから、2年に渡しといてくれ。1年は俺が持っていく」
「ん?おお、サンキュ」
プリントを渡してきた海に礼を言うと、よろしくなと直ぐに教室を出て行った。
プリントの束から一枚、目の前に座る夜久に渡し目を通すと宮城への遠征が書かれていた。
「最終日烏野だってよー」
「ああ、猫又監督も言ってたとこか」
「どんなチームだろうな」
「さあなー…」
そんな会話をしながら箸を進めていくと、あっという間に弁当箱は空になった。
「ちょっと2年のとこ行ってくるわ」
そう言い席を立つと、片手を挙げて"おー"と手を振る夜久を背に教室を出る。
2年の教室がある廊下は騒がしく、それでもこの背のお陰か皆が避けてくれた。
やっぱり目立つなあ、なんてどこか他人事の様に考えつつも、無事山本と福永にはプリントを渡せた。
あと研磨か、と3組の教室に足を向け、教室の中を見渡すがあの目立つ金髪の姿は目に入らなかった。
いつも教室に居んのに珍しい。
まあどうせ家近いし、帰りにでも渡せばいいかと踵を返そうとしたら、廊下側の席に座っていた男子生徒が声をかけてきた。
「孤爪ですよね?あいつなら多分屋上っすよ。転校生と屋上に続く階段登ってんの見たんで」
その言葉を聞き、さんきゅと短く礼を伝えた。
気付くと足は自然と屋上へ向かっていて、先程の帰りにプリントを渡す選択肢なんて頭の中から消えていた。
仕方がない。"転校生と"なんてフレーズを聞いてしまったら面倒臭さが好奇心に勝てる筈もなく、心が躍る。
屋上の少し重い扉を開いて直ぐに目に飛び込んできたのは、端のフェンスにならんで座る見慣れた金髪と太陽の光が反射してキラキラと輝く銀髪。
あ、と目を見開く。
あの女子生徒は今朝廊下でぶつかりそうになった子だと気付いた。
"宇宙人みたい"という感想は強ちまちがいではなかったようだ。
顔までは見なかったが、あの髪色は強く印象に残っている。その顔が拝めると思うと、進める足は自然と早くなった。
二人はゲームをやっているようで、研磨は俺に気が付いてない様子。
なんつーか、変に目を引くな、あいつら。
思わず溢れた苦笑いを隠すことなくふたりに近付く。
「おい、研磨」
ある程度近付くとそう声を投げかける。
ちらっとゲームから目を離しこっちを見た研磨はあからさまに嫌な顔をしやがった。
いやいやいや、今回はちゃんと正当な理由があるからね?
「…何の用?クロ」
おーおー、機嫌わっりぃな。
眉間に皺を寄せている幼馴染みの声につられるように、転校生はこちらに視線をよこす。
うわ…
深い緑色のその瞳に吸い込まれそうになる。
が、その瞳が俺を捉えるとみるみる目が見開かれ、直ぐに俯いてしまった。
「け…研磨、この人…」
くいくいと研磨の袖を引っ張る彼女の表情は、綺麗な銀色に遮られ伺うことができない。
なるほどな、こりゃあ確かに研磨に似てっかも、と頭の隅で妙に納得をした。
「あ、なまえが朝会った人?」
研磨の問い掛けに無言で頷く転校生。
なるほど、朝ぶつかりそうになったこと、こいつは覚えていたのか。
「トサカで黒くてでかい人って言ってたからクロだって直ぐわかったよ」
「あ?トサカ?」
「けっ!けんま!」
まあ言わずもがな、トサカとは恐らく俺のこの髪型だろう。
慌てて声を大きくする転校生に笑いが込み上げてきた。
「別に気にしねーよ、おら、部活の日程表」
そう言いながら、研磨に手に持っていたプリントを差し出す。
ちらりと転校生を見ると、恥ずかしいのか、俯いてぷるぷる震えていて加虐心が煽られる。
「転校生なんだって?」
「うぇ!?…あ、あ、あ、はい」
「ちょっと…クロ…」
しゃがんで転校生の顔を覗き込む。
ほー、可愛らしい顔してんな。
にやにや緩む口元を隠さずにいると、研磨が睨んできた。怖い怖い。
「名前は?」
「………」
「おーい、聞こえてんだろ?」
「……………」
じとりとこちらを見る彼女の瞳は警戒心剥き出して、そんな表情されるのは俺にとっては新鮮だったので、急かさずに無言で彼女の反応を待つことにした。
研磨が呆れた視線を俺に寄越してるが、この際気付かないふりを決め込んだ。
「………」
「………」
「………なまえ」
「?」
「…みょうじなまえ、です」
か細く、弱々しい声が聞こえて、聞き漏らさない様に耳を澄ます。
やっとまともにコミュニケーションが取れ、にやけそうになる口元を堪えた。
「ん、よく言えました」
そう言って頭に手を乗せれば、びくっっと肩を揺らし硬直してしまい、堪えきれず声を上げて笑ってしまった。
「なまえ、ごめん、こういう人なんだ」
研磨、そりゃあ失礼だろ。
だらだらと冷や汗が止まらない彼女のダボダボのカーディガンが風に揺れた。





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