春の朝

ふと目が覚めた。
見慣れない景色に体を起こすと、ここがサソリさんの部屋だと気付き、壁にかけてある時計を見ると針は5時半をさしていた。
目覚ましなしでもこの時間に目が覚めてしまうのは昔から。
まだ二人は起きていないだろう、見慣れない部屋をそっと出て、静かな廊下を足音を立てずに歩く。
昨日、着替えを出していないことを思い出して、廊下の隅にあるウォークインクローゼットの中から着替えを取り出し、洗面所に向かい、顔を洗い私服に着替える。
春といってもまだ四月、朝はまだまだ肌寒く、足早にキッチンに向かう。
ヤカンを火にかけ、お弁当と朝ご飯の支度。
粗方おかずは出来上がり、後はご飯が炊けるのを待つだけ。
コーヒーを淹れ、ソファーに腰掛けテレビをつける。
時刻は午前六時すぎ。
真面目な雰囲気のニュースキャスターが、地方の事件のニュースを読み上げているのをぼんやりと眺めていると、リビングのドアが開いた。
「悪かった!うん!」
振り返るよりも先に背中に浴びせられた言葉は、誰が発したか語尾の口癖ですぐにわかった。
『デイダラさん、おはよう』
振り返ると、顔の前で手を合わせ、申し訳なさそうに項垂れるデイダラさんの姿。
子供みたいに必死に謝る姿がなんだか可笑しくて、声をあげて笑ってしまう。
そのままの姿勢できょとんとするデイダラさんが更に可笑しくて、目の端が滲む。
『全然怒ってないよ』
そう言えば、ほっとしたような安堵の表情を浮かべ、ソファーに腰掛けた。
「お前どこで寝たんだ?まさかソファー?」
『ううん、サソリさんのお部屋。それでサソリさんはデイダラさんのお部屋で寝てるよ』

そう伝えると、デイダラさんの顔がみるみる青ざめ、殺されると呟きながら頭を抱えた。
旦那は怒らせると怖いとぼやいていて、なんとなくその光景が浮かび笑みが零れた。
本当に仲が良い。
喧嘩するほどなんちゃらと言うけど、この二人はまさにそうなのかも。
まあまあ、と宥め、デイダラさんにコーヒーを差し出すといじけたように啜っていた。
大きな子供みたいだな、って失礼なことを頭の隅でぼんやり考え、口に出すのは酷かなと思いその言葉を飲み込む。
テレビではニュースコーナーから天気コーナーに変わっていて、どうやら今日も気持ちいい位の晴天になるらしい。
今日は私は午後までだが、午後は授業が一つしか授業がない。
せっかくの晴天なら、洗濯物を干してから学校へ行こう。
そうすれば学校から帰る頃には乾いているだろう。
デイダラさんは寝起きが割と良い。
眠そうな気配もなく、テレビを見ながらいつもの高い位置で髪の毛を結ぶ姿を目の端に捉え、お互い会話はないが、案外居心地がいいものだ。
たまに話を振られ、それに答え、逆も然り。
いつもの賑やかなデイダラさんも好きだが、こういう空気も好きだ。
『私今日は八時過ぎには出るけど、デイダラさんは何時くらいに朝ご飯食べる?』
「んー、七時半くらいで頼む、うん」
『わかったー』
そんなやり取りをして、ふと時計を見るともうすぐ七時。
洗面所に行き、洗濯機を回す。
朝はまだ早く掃除機はかけられないので、掃除は帰ってからやろう。
そう思いながらリビングに戻るとご飯が炊けたらしく、炊飯器が甲高い音を伝えた。
一足早く一人で朝食をとる。
デイダラさんをチラリと見ると、雑誌を読んでいた。
今日の授業はなんだっけ、持ち物は昨日準備したけど忘れ物ないかな、と色々考えていると朝食を平らげていた。
食器を片付け、お弁当もくるみ、洗面所へ向かい歯を磨き、今度はデイダラさんの分の朝食を用意。
時計を見ると七時半ちょうどだ。
『できたよー』
「おー」
その返事を確認して、再び洗面所へ。
我ながらなかなか良い時間配分で、丁度洗濯が終わったところだ。
朝食を食べているデイダラさんを横目で確認し、リビングの窓から外に出ると太陽も昇り始めていて、起きた時より暖かさを感じ、ぐっと背伸びをした。
洗濯物の量は割と多い。
三人分の洋服、下着、タオル類。
二人のパンツにはもう見慣れてしまった。
サソリさんはボクサーパンツ、デイダラさんはトランクスを愛用している様で、畳んだ後それぞれのを分ける際困らない。
見慣れるのもどうかと思うが、まあ本人達も全く気にしていない様なので良しとする。
洗濯物も干し終え、リビングにあがると、デイダラさんが朝食の食器を片付けていた。
シンクの中に入れておいていいといつも言っているのだが、デイダラさんもサソリさんも片付けは怠らないこですごく助かっている。

「お、ありがとなー、ごっそーさん」
『お粗末様でした。デイダラさん達は何限からなの?』
「オイラ達は二限からだ、うん」
『そっか、遅刻しない様にね。私そろそろいくねー』
「おう、気を付けてな」
『はーい』
そんなやり取りをして、洗濯カゴを戻し自室に行く。
デイダラさんが使っていた私のベッドは綺麗に整えられていて、彼なりに気を使ったのか、と思わず笑みが零れた。
荷物を確認し、玄関を出る。
頬に春の風を感じて、私は学校に向け歩き出した。


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