残り時間は、ほんのわずか



『頃合いを見計らって、帰っておいで』


 しばらく経ったある日の夜。
 定期連絡を入れた私は、自分の耳を疑った。

『狩りの準備が整ってね。白蘭さんが大至急、君を呼び戻せってうるさいんだ』
「そ、う……ですか」

 そう答えるのがやっとだった。
 早くても後数ヶ月が掛かるだろうと思っていた。だから、突然の帰還命令には驚きを隠せなかった。

『ビアンカさんもいろいろと準備や都合があるだろうから、そうだな……七日以内に帰ってこられそうかい?』
「……はい、分かりました」
『それじゃ、あとほんの少しだけど頑張ってね』

 入江様はそれだけ伝えると、通話を切った。
 しばらくの間、茫然と携帯を眺めることしかできなかった。

「あと七日で、白蘭様に会える……。でも、私は……」

 スパイとして、彼の秘書に任命された時は本当に嫌だった。
 期間は早くても一年。そんな長い間も白蘭様のそばを離れるなんて、私には到底できっこなかった。でも他ならぬ、白蘭様直々の命令じゃ、嫌とは言えなかった。
 彼と付き合うことにしたのだって、情報が得やすくなるとかそんな軽い気持ちで了承をした。
 なのに、彼のそばから、離れたくない……!

「バカよね、敵に恋するなんて……っ」

 ぼろぼろと涙が頬を流れていく。拭っても、次から次へと溢れだしていった。


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