もう一度目覚めた時は
そこにすべてはなかった。
あの日、すべての記憶に上書きを載せたとき、すべて消え去った世界。
目を覚ましたときはそれは過去でも記憶でもなく、心の闇として残っていた。
「 」
永久に消えた呼ぶ声は確かに聞こえるはずなのに、それが誰だかも名前がなんなのかもわからない。
もう一度耳を澄まして聞けば、今度は今の自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
「……なぁに?どうしたの?」
振り向くと、そこにはよく見知った顔の彼がいた。
口元に笑みを浮かべながら、こちらへと歩み寄る。
彼は小さい頃から、いつも私の隣にいた大事な幼なじみ。
「また、ぼーっとしてたの?」
「まぁね。 最近、なんだか…わかんなくて」
「なにそれ」
薄く笑う彼を見て、胸が痛む。そういえば、彼と同じ顔の彼はどうなったのだろう。間接的にしか知らない記憶の彼は今も笑っている。
虚しさと疎外感が心の中に膨れ上がり、衝動的に涙を流した。
「ちょ、どうした!?僕、そんな悪いこと言った?」
「……言ってない。」
優しいところも心配してるところも今、覗き込もうとしている彼の表情もすべてが私の心に痛みを与える。
名前もなにもわからないのに大切だった。それはきっと前の私の記憶。
「違う、の。ただ、寂しいだ、け」
すべてがまた消えてしまうんじゃないかと。
もし、すべてが消えてまた新しい自分になったのなら、私に意思はあるのだろうか。
そんな恐怖しかない。
無論、また新しい私もそう思うのだろう。
せめて、消え去るのならば私も一緒に消しとほしい。
「泣かない、で。僕がずっと一緒にいるから」
それはあまりにも重い言葉。
目が覚めたら、世界は変わる。
ただの小説。
こういう短編(まじでただのショート)も書きたい。
このあと、一体どうなるんだろう。
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30th.Jun.2011
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