京都北野天満宮のすぐ側にある上七軒


「・・・秀次さんから連絡です。北野天満宮に最近出没するモノを退治してほしいそうです」


此処に住む不思議な四人

彼等は裏七軒と呼ばれる存在

豊臣とその大切な地である京の都を守る為の異能集団

その内の一人、薄茶色の髪の少女が事務的に他の三人に報告した


「――また、仕事か」


報告を受けた三人の内の一人、少し長めの黒髪の青年が溜息混じりに呟いた


「そう言わなさんな。・・・でもまぁ、確かに最近はコッチの仕事が多いなぁ」


その呟きに反応して黒髪の青年の隣に座っていた白髪の青年が宥めるように言った


「文句を言いたくなるのは仕方の無い事ですが、お仕事ですから。頑張って下さい」


その二人に少女は先程の様な事務的な話し方ではなく、思いやりを含んだ優しい丁寧な言葉遣いで励ました


「だってよ、橘」

「・・・わかっている」


にこにこと笑顔でいる白髪の青年とは対照的に未だに眉間に皺を寄せている橘、と呼ばれた青年は無愛想にそう返した


「橘、桜。早く行こう?」


そのやり取りを今迄黙って聞いていた一人、少年とも少女ともとれる顔立ちをした人物が二人にそう声を掛けた

ちょこん、と首を傾げる姿は可愛らしい

可愛らしいその仕草に空気が柔らかくなる


「そうだな。じゃあ行ってくるな。留守番頼んだぜ」


桜と呼ばれた白髪の青年が少女の頭を優しく撫でる

やがて少女を除く三人が部屋から出て行き、仕事に向かう

少女はその背中を見送り、今回も何事も無く無事に三人が帰って来る事を願った


「・・・私も、何か手伝える事が出来たら良いのに」


何の力も持たない自分の非力さが少し悲しかった

静かになった部屋に少し寂しさを感じた

三人が仕事に向かった後、少女は家の中の掃除を済ませる

そうしていてどれくらいたっただろうか

静かだった家が俄かに騒がしくなった

三人が帰ってきたのだろうか

少女は作業を中断して出迎えるために玄関へと駆けた

玄関には予想した通り仕事を終えたであろう三人がいた

正確には三人ではなく四人だった

桜に担がれている者がいたのだ


「おかえりなさい。皆さんご無事の様でよかったです。…えっと、其方の方は??」


何処にも怪我が見当たらない三人の姿にほっとしながらも桜が担いでいる少年に首を傾げる


「ちょっとなぁ。この子を寝かせる為の布団をひいてくれるかい?」

「? 分かりました。少し待ってて下さい」


事情は分からないが何か訳が有るのだろう

そう考えた少女は居間に駆けて行き、座卓の隣に布団を一式押し入れから出し、ひいた

布団をひき終えた頃に丁度少年を担いだ桜が居間へと入って来た

そっと少年を布団に寝かせる桜

その行動を見ていると寝かせ終わった桜と目が合った


「ん? どうした??」

「いえ、その・・・この方は?」


そう尋ねると桜は順を追って説明してくれた

仕事先に着き、結界を巡らせたが彼が結界内に侵入したらしい


「桜が結界を巡らせたのに彼が入ったなんて・・・。信じられません」


桜は結界を張るのに長けている

なのにそれを抜けたというのだ


「彼は、まさか徳川方?」

「恐らくそうではないだろう」


桜と話していたところ、後ろから声が聞こえたので少女は振り返った

そこには居間に入って来た橘と裏七軒の最後の一人、はながいた

二人共仕事装束から普段着に着替えていた


「橘、どうしてそう思うのですか? 桜の結界は強力なものだというのは知っている筈ですが」


違うと答えた橘に少女は問いかけた


「別に確証はない。ただ」

「ただ?」


そこで言葉を切った橘を促すように彼の言葉を繰り返した

確証はないというが彼ならばそう言うのに何か理由があるのだろうと少し身構える


「こんなぼやっとした奴が刺客とは思えないだけだ」


が返ってきた答えはただの偏見だった

思ってもみなかった返答に思わずズッコケそうになる


「た、橘? それはただの勘というものではないでしょうか? 確かに、彼はそのような方には見えませんが」


少女はスヤスヤと眠る少年を見て言った

少年の傍には何時の間にか、はなが座っていた

ウトウトしているのであのままではきっと眠ってしまうだろうのは明らかだった

後で何か掛ける物を持って来よう、と少女は思った


「まぁ、何にせよこの子の事を調べなきゃなぁ。橘、やるぞ」

「あぁ」


二人は立ち上がり彼の物であろう鞄をあさり始めた

プライバシーの侵害だと言われるかもしれないが仕方のない事なのだ

万が一彼が徳川方であったなら危険である

少女は二人の邪魔をしない様にそっと部屋を出た


「まずは、はなに掛ける物を持って来て・・・。その後にお昼ご飯の用意でもしようかな」


気が付けばもう牛の刻を過ぎていた

少女は押し入れから毛布を取り出すと、はなに掛けてやり、お昼ご飯の準備を始めた


「きっともうすぐ彼も目覚めるだろうし・・・」


少女はそう考え、五人分の昼飯を用意する事にした

何を作ろうか、と一瞬悩んだが

今日ははなが頑張ったので、はなの好物の麺類にする事にした


「ふふ、橘がまた麺類か、って言いそう」


だがウンザリしながらもはなの喜ぶ姿を見て、黙って食べる橘の姿が目に浮かんだので、少女は調理しながら少し笑った




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