「―――何か、入ってきた」


この数百年、破られることがない"囲い"を何かが通り抜けた

はたしてそれはヒトなのか、ヒトではないモノか

どちらにせよかなりの力を持っているのは間違いない

桔梗は閉じていた瞼をゆっくりと開けた


「ふむ、それにしても此処に何の用が在るのやら」


背後にある大樹に少しだけ寄りかかる

何が入ってきたのか少し気になりはするが此方から赴こうとは思わない

私は此処から動く気はない

もし入ってきたモノと私が出逢う運命ならば動かなくても向こうからやって来るだろう

桔梗は僅かな時間宙を見つめる

そして再び眼を閉じた

彼女が動かなければ何の音もしなかった

元々この空間にあるのは一面の真っ白な花とこの一本の大樹だけだ

他の音などしない




静かな空間の中

敷き詰められている白い砂利の音が鳴った

誰かが白い砂利を踏みしめている音だ


「・・・」


音が徐々に近づいてくる

それと同時に少年の声も聞こえてきた


「・・・城跡にこんなとこがあったんだ。しらなかったな。それにしてもこの白い花すごく綺麗だなぁ。これって確か・・・。ってそうじゃなくて母さんどこ行ったんだろ」


声を発した人物の気配がすぐ近くまでやって来た

――ヒトだ

桔梗は少し困惑をした

気配はただのヒト

だが、ただのヒトが自分の¨囲い¨を通り抜ける事が出来るだろうか


「うわー、大きな樹があるなぁ。ってあっ! 人がいる!! よかったー、他に人がいないのかと・・・」


先程から一人で騒がしい少年が此方に気づき、近付いてきた


「あのー、すみません。ここって・・・。えっと、あのー?」


少年が目の前にやって来て話し掛けてきたが反応をせずに目を閉じたままでいると少年が慌て始めた


「寝てるのかな? 起こしちゃうのは気が引けるけど、この人以外に人はいないみたいだし・・・」


少しの間考えた少年は目を開けるまで待つことにしたのかその場に座り込んだ

桔梗の丁度正面である

普通なら相手を起こすだろう

なのに目の前に座り込んだ少年はそれをせずに待っている

優しいのか馬鹿なのか

桔梗は少年に何故か興味を持った

ゆっくりと瞼を開ける


「少年、私に何か用があるのだろう? ここに入り込んだということは」

「うわっ!? ハイッ!!?」


急に話し掛けられた事に驚いたのか、少年はビシッと姿勢を正した


「えっと、こんにちは?」

「つまらぬ挨拶などいらない。何をしに来た?」


そう問い掛けると少年は頭にはてなを浮かべる


「何をしに来たと言われても・・・。えっと、ここの近くにある城跡を見に来たんです」

「それだけか? 私に用があるのではないのか??」


少年はまたもや頭にはてなを浮かべる

桔梗は表情には出さなかったが少年の反応に内心首を傾げた

少年の反応を見る限り言っていることに嘘はない

しかしなら何故ここに入り込めたのか

それにおかしいのはそれだけではない

この至近距離にいても少年からは何の力も感じないのだ

少年は¨無¨だった

力がないのに入り込める筈がない


「・・・では君は此処から出たいのか?」

「出たい??どういう・・・?」

「出たいのだろう? なら出してやる。此方に来い」


訳がわからない、という顔をしたままそれでも少年は傍にやって来た

桔梗は手の届く範囲にやって来た少年にそっと手を伸ばした

バチリ

少年に触れたところから電流が走った様な痛みが走った


「っ!?」


たいした衝撃ではなかった

だがたいした衝撃ではない筈なのにそのまま桔梗の意識が遠のいていく

桔梗はゆっくりと後ろへと倒れ込む

目の前に居た筈の少年の焦った声が聞こえた気がした

倒れこんだ彼女の瞳に映ったのは何もない真っ白な空

そして薄れゆく意識の中

彼女の耳には懐かしい声が聴こえた


――桔梗


その声は紛れもなく待っている人の声で

ずっと会いたいと思っていた人の声だった




桔梗はを呟いた

小さな声で

ただ一人を想って



「・・・三成」





















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