雑貨屋の中は広く、物陰に隠れればうまく後をつけられそうだった

二人に気が付かれないように、エルティとフェレスは目立つ髪色を隠すため、フードと帽子を着用している

非番で外に出るときは、髪色を隠さないようにしていたため、その度に目立っていたものである

一応、客らしく見えるようにそれっぽく戸棚の商品を見てるふりをする

一方、ヒサメとメフィスは中々雰囲気は良さそうだった

あまり興味なさそうに商品を眺めるヒサメに、メフィスは気分を害することもなく彼の袖を引いて楽しそうに商品を見て、話しかけている

そして、ヒサメもそれを邪見にすることもなく、一緒に商品を見て、感想を述べているみたいだった


「ふふ、二人とも楽しそうね。ねぇ、フェレス。二人の邪魔をするのも悪いわ。私たちは別の所に…」

「メフィス、楽しそうだな…」

同じように二人を見ていたフェレスは沈んだ声でつぶやいた

その横顔はどこか寂しそうに見える


「フェレス…!? 大丈夫、メフィスはフェレスと一緒でもすごく楽しそうよ」


妹が他の男性と一緒にいて、楽しそうにしているところを見て、気を落としたのだと思った##NAEM1##はフェレスを元気づける


「ふ、ふふふふ。メフィスのやつ…。俺だってデートしたことないのに…!」


しかし、フェレスは不気味な笑いを発し、怒りというよりも嫉妬の炎を燃やしていた

そういえば、フェレスは女性と親しくなったことがあまりないのだという

仕事での立場上、同僚と仲良くなるが、男女の関係に発展したことは、エルティが把握している限りではない

幼い頃は、社交界で令嬢たちに人気であったと記憶しているのだが

謎である


「エルティ、二人が店から出ていくぞ。追いかける!」

「…わかったわ。それで気が済むのなら」


なんだか、フェレスが気の毒になってしまったので、今日は彼の気が済むまで付き合うことに決めた

つけられることになる二人には申し訳ないのだが

一方で、つけられている二人は、雑貨屋から出てくる男女二人組を気配で感じながら、小さな声で会話する


「ねぇ。あの二人はあれでバレてないって本気で思ってるのかな?」


もちろん、エルティとフェレスの尾行は二人にはバレバレであった

実力のある騎士相手に素人が尾行をできると思っているのだろうか


「もちろんですよー! 可愛いでしょう」

「君、フェレスには辛辣じゃなかった?」

「…そーでした。内緒にしておいてくださいね、ヒサメさん! 二人の秘密ですよ」


なにが二人だけの秘密なんだか

つい口を滑らせたかのような言い方ではあったけど、そんな感じは微塵もない


「君も中々したたかだよね」

「えへへ。あっ、今度はあの雑貨屋さん入りましょ! 今日の思い出に私に何か贈り物してくださいな、ヒサメさん!」

「本当にしたたかだね」


まぁ、今日一日は付き合うという心づもりなので、良しとしよう

雑貨屋に入った二人の後に続いて、エルティたちもそそくさと店に入って来る

まったく、仲がいいのか悪いのか

いや、確実に仲がいいのだろうが

思えば、彼女たちが入隊した時、間者か何かと疑いの目を向けていた時期があったが、この尾行技術では、違うと断言できよう

むしろ、疑ったことが恥ずかしいレベルだった

何が目的でセレグ騎士団に入ったのか、いまだに不明であるが、彼女らは事件を起こすような質の人間ではないだろう

ここ最近の不穏な動きも彼女たちとは関係がなさそうだ

いや、起こす側では無いという話だが


「ヒサメさん! これ、エルティの髪に良く映えると思いませんか?」


メフィスが嬉しそうに手に取ったのは、金色の髪飾り

春の花の一種をモチーフにして、華やかすぎず、かといって控えめすぎずに趣向が凝られている

たしかに、エルティの性格や、外見から判断すると、似合うだろう

それにしても、メフィスは自分に記念の贈り物をしろと言っていたはずではないのか


「これは私からエルティへのお土産ですよ! エルティは可愛いからなんでも似合うんですけど、髪色を気にしてたからあんまりこういうの自分用に持ってなかったんですよね。でも、ここに来てからは着けてくれるようになったので、贈りたいな、って思って」

「ふーん。いいんじゃない。色合い的にもいいし」

「ですね! じゃ、これをちょっくら買ってきます。ヒサメさんはここにいてください!」


決めてすぐに購入しに、店の奥へと進んでいくメフィス

どうやら、自分用の小物を探すことを忘れているようだった


「まぁ、別に忘れているならいいけどね」


大人しくメフィスが帰ってくるのを待っていようと、何気なく商品棚に視線を落とした

すると、そこには先ほどメフィスがエルティの土産に買うことにした髪飾りの色違いが置いてあった

その色は、エルティ大好き少女に似合う気がして、彼女が忘れてしまった記念の物にしてもいいかなという気にさせた

後で騒がれるのも面倒な気もする

ヒサメはそれを手に取って、彼女が向かった方とは逆の方向に向かった




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