ラジ王子の滞在は無事に終わりを迎え、エルティたちセレグの騎士も王子の帰国を見送ることとなる

これにより、ラジ王子来訪による、一時的な王城の警備強化が終了し、セレグから派遣されていた騎士たちはラジ王子の数日後、セレグ基地に戻って来ていた

騎士団長に報告を終え、任務に従事していた騎士は、二日間の休暇を与えられていた

久しぶりの基地に、任務にあたっていた者たちは息をついた

エルティたちも例外ではなく、談話室で息をつく


「肩凝ったほんと疲れたもうほんと疲れたー」


一応は淑女であるはずのメフィスは、四肢をだらしなく伸ばして、だらける

それを眉をひそめて一応指摘するフェレス

しかし、やはりというかメフィスがきにすることはなく、そのままだらける


「何事もなくてよかったわ。近頃は不穏な動きがあるって話だったし」

「たしかに…。ラジ王子を目的としていたのなら、今回の件を見逃すはずないもんな。つまり、その不穏な動きってのは他に目的があるかもしれない、ってことか」

「はいはいはーい。そもそも、その不穏な動きってほんとにあるの?」


いつもは傍観どころかまともに聞いてすらいないメフィスが、珍しく二人の会話に入ってくる

彼女の疑問は、セレグ付近で一部の者が見せる不穏な動きというものが本当にあるのかということだった


「メフィスが話を聞いてて、しかも質問だなんて…」

「うん。うざい」

「…セレグで団長たちが言ってたろ。不穏な動きがみられるって」

「うん、そうなんだけど。ラジ王子を害する動きだったなら、結構その計画って大きいものだし、準備ももっと前からやるよね? それに、セレグ基地の近くじゃなくて、もっと隠れやすそうなところでもいいじゃん」


つまり、メフィスが言いたいのは、その不穏な動きは、ラジ王子を害するといったものではなく、別の目的はないかということ

しかもわざわざ騎士団の駐在するセレグ基地のある地域でやる必要があるのかということ

ラジ王子が訪問すると決まってから、王城や城下の警備が強化されたというし、王都は危険だとしても、セレグより、王都に近い街で準備を進めた方がいい

メフィスの指摘は二人が見落としていたことだった


「そうね…。たしかに、セレグでわざわざやる必要はない」

「そういえば、後からヒサメに聞いたんだが、不穏な動きがみられるようになったのは、二週間ほど前かららしい」

「ラジ王子に対する計画だったなら、計画を立てて、実行するには流石に期間が短すぎる…。結局何も起こらなかったわけだし、目的は別にあると考えるのが順当ね」

「わざわざセレグでやる必要のある準備、二週間ほど前からの準備…」


このワードぴったり当てはまる出来事は確かにある。だが、それはなぜそうなるのかについての説明ができない


「んー、なんか、これだと私たちのことを狙ってるみたいだねぇ」

「たしかにな。俺たちがクラリネスに渡航して一か月少し、セレグ近辺での計画…。でも、この国の人間が俺たちを狙う理由がないだろ…」


自国ならとにかく、そんな言葉を飲み込んでフェレスは整理する

そもそも三人は入国して一か月であり、狙われるような目立った活動はしていない

小さな恨みを買うならともかく、しっかり計画してまで狙われる覚えはないのだ


「まっ、私はエルティがひどい目に遭わないんなら基本的になんでもいいんだけどっ。そんなことより、明日はフェレスがエルティに付くんだよね? じゃあ、私は街に行ってくるから!」


メフィスの興味はもう別のことに移ったようで、休暇中の予定について話し出した


「街に行くの、メフィス? 迷ったり、絡まれないように気を付けてね」

「いや、絡むのはこいつ…ぐっ。足を踏むな足を」

「大丈夫だよ、エルティ! 明日はデートだし、相手がセレグに詳しいしね!」

「「デート?」」


唐突に聞くにはいささか驚かされる単語に、エルティとフェレスは声をそろえた

このセレグに来てまだ一か月だというのに、もうデートに行く相手がいるとは、メフィスのコミュニケーション能力には高さには感心させられる


「そう。楽しんできてね」


なんにせよ、メフィスが自分たち以外に興味を示し、大切に思うようになってくれるのなら、それは素直に嬉しいし、いい傾向であると思う

メフィスは少々排他的な部分があり、そのことをエルティは心配しているからだ

フェレスもそのことに気づいているし、エルティと同様に妹を心配していた

なので、同じように喜ぶかと思ったのだが、冷や汗をかいて焦ってるところを見ると、そうでもないらしい


「いや、俺は別に気にならないけど一応保護者としてな。誰と行くんだ? セレグの騎士か? まさか街の奴じゃないだろうな」 

「え、ヒサメさん」


完全に気になって仕方がないと様子のフェレスに気づいているのかいないのか、あっさりと相手の名前を告げたメフィス


「あいつかよぉ!」

「あら」


なんとここであっさりと知っている人の名前が出てきた

声を上げたフェレスはよりによってアイツとデートということに対して

一方、エルティはいつの間にデートに行く仲になったのかということについて声を上げた


「あら? フェレスはヒサメ副団長だと問題があるの?」

「アイツは裏があるって言っただろ…。てか、性格がよくない!」


エルティは彼が言うほど副団長の性格が悪いと思ったことはない

だが、フェレスは個人的に何かあったのか、それとも本能的に感じ取ったのかはわからないが、前から副団長が苦手、あるいは性格が悪いと感じているらしい


「大丈夫大丈夫! だってかっこいいし!」

「それの何が大丈夫の保障になるんだぁ!!!」

「まぁまぁフェレス。楽しんできてね、メフィス。お土産話を楽しみにしてるわ」

「うん! 明後日は一緒に街へ行こうね!」


メフィスにとって、明日のヒサメとのデートは明後日のエルティとのデートの事前調査も含まれているらしい

しっかりしている

フェレスはまだ完全に納得していない様子であったが、メフィスのことに関してはほぼ毎回このような感じなので、特に気にすることもなく解散という形になる

フェレスには少しだけ気の毒だが、メフィスの土産話が明日の楽しみになった

というのも、エルティは自国にいた頃も、今も、デートというものを経験したことがなかったからだ

最近急に決まった婚約者は、デートどころか会ったことすらなく、姿絵でしか見たことがなかった

そのため、よくフェレスの話や、メイド、侍女の話を聞いて心躍らせたものだった

エルティはメフィスが楽しく明日を過ごせればいいと願った






翌日は、澄み渡る青空に心地よい気温

まさにデート日和である

しかし、エルティは特に予定がなかったため、非番ではあるが街の見回りしようと思っていた

朝、食堂で待ち合わせたフェレスにもその旨をきちんと伝え、私服に着替え、街に出てきた

ちなみに、私服は少し前の非番で購入したものである

いかなる事態にも対応できるように、動きやすいズボンを履いている


「―――で二人をつけているのはいるのはどうしてなのかしら?」


エルティとフェレスから少し離れた前方には見たことのある銀髪の少女と黒髪の男性が歩いている

今日、非番が重なり、デートをしているらしい二人だ

だが、しかし、何故自分はこの二人をつかず離れずの距離で尾行しているのだろうか

たしかに、非番なのにフェレスがやたらと時間を気にしていた

それはどうやら、この二人の出発時間に合わせるためであったらしい

一体どこからそんな情報を仕入れてきたのか、エルティには見当もつかない

エルティはもう一度、隣にいるフェレスに問いかける


「フェレス、二人のことが気になるのはわかるけれど、後をつけるのはよくないわ」

「いや、これは下世話なあれじゃない。街の安全を確かめるために、一般人に紛れて街中を探索するんだ。俺たちが行く先にたまたまあの二人がいるだけだ。だからセーフだ。おっ、大きな雑貨屋に入るみたいだな、エルティ、あの雑貨屋の視察に行ってみよう」


エルティを気にしつつ、雑貨屋に入るフェレスに、仕方がないと半ば諦めてその後に続く

大事な妹が異国の地で知り合ったばかりの男性と二人でいることが心配なのだろう

まぁ、それだけではない気もするのだが





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