要件も終わり、ヒサメ副団長は仕事に戻るということなので、二人は人気のない場所から戻ってきた

エルティはヒサメに話を聞かせてくれた礼を言うために改めて彼に向き直り、お辞儀する


「いいよ、別に。面白いものも見れたし」

「だから、それはできるだけ早く忘れてくださると嬉しいです」

「うん。無理」


左様ですか

この分だと当分の間はこれをネタにいじられそうである

そう思うと気が重い

なんて勘違いをしてしまったのだろうと思う

気を沈ませていると、背後からメフィスの声が飛んできた

振り返ると隣にはフェレスもいる


「あ、エルティ! こんなとこいた〜、探したんだよ」

「そうだったの? ごめんね、ちょっとヒサメ副団長とお話してたから」

「お疲れ様っす、ヒサメどの」

「お疲れ」


親しげに挨拶を交わすフェレスとヒサメ

いつの間に仲良くなったのだろうか?

メフィスの方は、ヒサメに挨拶することなくエルティに駆け寄る


「結構探したんだよ、どこで話してたの??」


結構探して見つからないのは仕方ない

なんていったって本当に人に見つからないようなところで話していたからだ


「内容が内容だったし、二人きりで話せるところよ。…というかメフィス、ヒサメ副団長にちゃんと挨拶しなさい」

「は〜い。ヒサメさん! お疲れ様です、エルティと二人っきりってどゆことですか!? エルティに何かしてないですよね!?」

「メフィス、いったん落着け。うるせーから」


フェレスが騒ぐメフィスを宥める


「んー。したというよりはされた、が正しいかな? ね、エルティ」

「ひ、ヒサメ副団長…」

「じゃ、僕はこれで。じゃあね」

「お話ありがとうございます…」


ひらひらと手を振って楽しげに去っていくヒサメの後ろ姿を、軽く睨みつけながら見送る

残されたエルティと双子

双子は真っ青になり、エルティは冷や汗をかく


「二人とも? 言っておくけどホントにおかしなことはなかったからね?」


そう、なにもおかしなことは無かった

少なくとも私の記憶からは抹消されました

それよりも、他に気になることがあるので、この話は終わりとばかりに手を一度叩き、双子の目を見る


「そんなことより、ヒサメ副団長から二人のこと聞いたわ? 一体何をそんなに噂になるようなことをしてるのかしら??」


怒っているように聞こえないように、努めて柔らかく双子に問いかけた

事情が事情であるし、目立つのは好ましくないことくらい二人もわかっていると思っていた

だが、どうやらこの二人は理解はしていても目立たないという行動を取れないみたいだった

個性というものが一際目立っている双子

…この双子に目立つなという方が酷な気がしてきた


「いやまてエルティ!! 言っておくが俺はおかしな事をしてないぞ!?」


誤解だと弁明するフェレス

そんな兄を睨みつけるメフィス


「ちょっと! 私がやらかしているのなら、フェレスだって十分やらかしてるからね!?」

「デ、デタラメいうんじゃねー!」

「デタラメじゃないし。エルティに話しかけようとする人を追い払ったりしてるじゃん」

「? それはどういうこと??」


エルティがフェレスに問いかけるように視線をやると、フェレスは告げ口をしたメフィスを恨めし気に見てから白状する


「…あいつらがエルティに下品な気持ちで話しかけようとするから」

「下品? そんなことはないと思うのだけれども」


どの騎士も途中編入の自分たちに親切だ

感謝こそすれど、恨み言をいうことなどないと思うのだが……


「いや、あの目は親切心だけじゃない、断言できる!! だから俺は改める気ないからな」


もうこの話は終わりだと言わんばかりにフェレスはそっぽを向いた

これ以上は何を言っても無駄であることは長年の付き合いであるが故にわかる

エルティは困った様に息を吐いて、これ以上の言及を諦めた

大事にならない限りは好きにさせるよう

元々、彼の行動は自分を思ってのことであるし、大丈夫だろう


「わかったわ、好きになさい。フェレス、私を思ってくれるのはすごく嬉しい。けれど、フェレスが不利になることは止めてね」


優しく、諭すように言葉を紡ぐ

昔からフェレスの本質は変わらない

自分よりもエルティとわかりにくいが、メフィスの得になることを躊躇いもなく選ぶ

そのことによって自分に損や批判が回ってきても

エルティはそんな彼を少なからず嬉しく思うが、同時に心配である

自分の幸せよりも他人の幸せを願ってしまうフェレス

けれど、そんな彼に惹かれる者も少なからずいるのだ

自分たちの国には沢山いたし、ここでも沢山の騎士に囲まれているフェレスをよく目にする

それが男性ばかりなのが彼に出会いが来ない原因でもあるのだけれど

自分にとっても大切な存在だから、彼が望んでいる限りどうにかしてやりたい

自国に帰ったら、改めてフェレスに友人の一人や二人を紹介しようと思った

そんな同情にも近いことをエルティに思われていたとは露ほどにも思わずにフェレスは彼女の言葉に頷いた


「そういえば、巡回の方はどうだったの? 問題はなかった??」


巡回が終わってエルティを探していた二人に、今日の街の様子を尋ねる

すると、二人からは概ね問題はなかったとの答えが返ってきた

だが、問題がなかったにしてはフェレスの顔は何か気になることがあるという表情を浮かべていた


「…何か気になることがあるのね。些細なことでもいいわ、教えて」


フェレスの表情を正確に読み取り、促す

これも長い付き合いだからこそ成せる事なのだろう


「街中で妙な連中が目立つ事がある。目立つっても、何か悪事を働いてるとかじゃないんだ。表向きは普通にしてるんだが、雰囲気が良くない。あれは、何か企んでるというかなんというか…」

「そう。それは判断が難しいわね」


フェレスが言っているのはあくまでも根拠の無い直感での話

勿論、エルティはフェレスの直感と推察眼を信じている

だが、根拠が不確かなモノでは相手を調べる正当性がない

騎士という正規の人間側である限り、正当性のないことは出来ない

思想は個人の自由の範疇であり、不当性とは言えないからである


「セレグの人間が気づいてるかどうかは微妙だ。一般の騎士は気づいてないだろうけど、頭のいい奴なら気づいてる可能性もある」


気づいていても動くことが出来ない

つまりは現状、そういうことなのだろう


「治安を取り締まるセレグ騎士団基地の近くで企んでる。どう考えても当てつけにしか思えない。このまま何も無いとは言い切れないな」


自身の考えを述べるフェレスは、懸念した声で話してはいるが、この国を思ってのことではない

つまるところ、エルティがこの国から去るまで何もなければいい

それだけだった

だからこそあまり刺激することもなく、エルティに目的を達成して欲しいのだが、我らが主君はこの国を放って置くことはしない

この後のエルティの発言により、フェレスの予想はやはり当たる事となる


「じゃあ、私達で可能な範囲の情報を集めましょう。何かあってからでは遅いけれども、セレグは何かあってからじゃないと動けない」

「…だな」


溜息混じりに承諾するフェレスであるが、本来の立場ではこの行為が不敬にあたるのは理解していた

だが、せずにはいられなかったのも理解して頂きたい

話に一段落がついたところで先程から話に一切入ってこないメフィスに向き直る


「…メフィス。話が面倒だからってそれはないだろそれは。聞くぐらいしとけ、後で説明し直すの面倒なんだから」


難しい話が嫌いな妹はこういったややこしい話になると加わってはこない

頭を使った事を好んでいないので、他の人間が決めた方針に従うだけである

今回も彼女は、自分の髪の毛先を指で弄って暇を持て余していた

振り向かずともわかったのは、話に加わらないのはいつものことであると同時に、エルティと話している時に何度か枝毛という単語が後ろから聞こえていたからである

彼女は振り返ったフェレスに声をかけられ、ようやく話が終わったのかという風に髪の毛から手を離した


「聞いてたから。うん、それでオッケー」

「適当に流すなって…」

「別にいいじゃん。私は難しいことわからないし、理解する気もないし。ほら、さっさとご飯いこ」


メフィスに言われて時計を見ると、確かに昼食の時間になっていた

午後にはエルティが巡回に行く事になっているので、早めに昼食を摂るべきであった


「だな。食べに行くか」


その言葉を区切りに、この話は打ち切る

いつまでもここで話しているわけにはいかないからだ

三人は昼食を摂るために、食堂へと向かった






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