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さらに時が過ぎ、皆が騒ぎ疲れて眠った頃、一色が創真に『鰆の山椒焼きピューレ添え』を作り、料理対決を挑んだ

一色の料理を口にした創真は、他の寮生の料理とは格段に違う美味しさに驚く

一色がその疑問に、自らが遠月十傑第七席であることを明かした

創真は一色の申し出を受け、自身も春をテーマにした鰆料理を作るために厨房に立つ

調理の匂いにつられ、眠っていた伊武崎、吉野、榊が目覚めて二人の勝負を見届ける

吉野が一色の裸エプロンという格好に突っ込もうかどうか一瞬悩んだが、突っ込まないことにした

創真が鰆を焼き上げ、三つ葉をざく切りにして盛り付ける

完成したのはゆきひら裏メニューその20(改)『鰆おにぎり茶漬け』


「本当は鮭で作る品なんだけど、本日は鰆バージョンで作ってみました。さぁ、皆でおあがりよ!」


伊武崎はどこかに行ってしまったので、三人分のお茶漬けが用意された

榊がお茶漬けに注がれた物に興味を示す


「注いであるのはなあに?」

「塩昆布茶だよ。やさしい塩気とコクが食事の〆にぴったしだからね」


いかにもな香りに刺激された吉野がおなかをおさえる


「もー!! こんなの出されたらおなか減るに決まってるじゃん!」


実食を始める三人

一口食べた瞬間に感激の言葉が三人から漏れる


「鰆の身がすごくジューシーで…。何より皮のこのザクザク感! 噛む度に旨味が湧き出てくる」

「ただ炙っただけじゃこの歯応えは出ないわ。いったいどうやって…」


吉野と榊の料理の美味しさへの疑問に一色が答える


「『ポワレ』だ…。この鰆、『ポワレ』で焼き上げられている!」


『ポワレ』という聞きなれない単語に吉野や榊のみならず、調理者の創真も驚きの表情を浮かべた


「何であんたも驚いてんのよっ!!」


すかさず吉野が創真に突っ込むが、創真自身知らない技法だったようだ


「教えてもらえるかな創真くん…。なぜ君が、フランス料理の技法を?」


『ポワレ』とは

フランス料理における素材の焼き方『ソテ』の一種でパレットナイフ等を使い素材を抑えながら均一に焼き色をつける技法

臭みが出ないよう魚から出た油を逐一捨て、オリーブオイル等を足しつつ焼く必要がある


「この焼き方はウチの親父に習ったんすよ。魚をパリッと仕上げるのにはもってこいだってね」

「君のお父さんはフランス料理の修業を?」

「やー、それがよく分かんなくて。どうもいろんな国で料理してたみたいだけど…」



純白の米が雪を、雪の中から力強く現れる鰆は春の生命力

創真は春の始まる一瞬を、たった一品で表現したのである

それから三人は夢中で料理を平らげていく

ザクザクとした食感に、絶妙な塩気

完食するのに時間はかからなかった

創真が頭に巻いた手ぬぐいをほどく


「御粗末!」


春の芽生えに感動し、涙を流す一色


「美しい…、雪解けだったよ創真くん…!」

「先輩こそな…! 清々しい春風、感じたぜ…!」


同じように先程の一色の品を春風と感じ、感動した創真が言葉を返す

二人の間に何かが芽生えた


「いい勝負をありがとう!」


涙を流す半裸の男と握手を交わす同級生

朗らかに握手を交わす二人は、目覚めたばかりの田所には奇妙な光景としか理解できなかった


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