秘め事(3/19)


「…オプション料ってことで俺もその花見に混ぜてくんない?」


ダメもとで聞いてみると夏見は煎餅を咥えたまま俺を見据えて静止した。…無表情だから何を考えてるかわからん。


「や、冗談です。今度何か奢るからお菓子食べさせてください」

「…教室行かなくていいの?」

「え? あー、反省文書き終わるまで多分一時間くらいかかるだろうから、ここでしばらく景色眺めてようと思ってたんだよね」


夏見は「そう」とだけ言うとビニール袋を隅に寄せて一人分のスペースを作った。どうぞ。ってことか。


「いいの? ありがと!」


梯子を上がって靴を脱いでシートに座る。途端に花見感が強くなってテンションがあがった。


「つーかすごい量だな」


袋の中には新商品のお菓子から懐かしい駄菓子まで盛りだくさんに詰まっていた。


「浮かれて買いすぎた」

「ははっ、夏見が浮かれてる姿って全然想像できねぇんだけど。…あ!俺これ好き!」


ピンク色の四角い物体がいくつも並んでいる駄菓子を取り出す。さくらんぼ餅。微妙な触感と微妙な味が好きで子供のころよく買っていた。…というか今でもたまに買う。


「女児か」

「はぁ!?何でだよ!お前が買ったんだろ!」

「桜を見てたら食べたくなった」

「…普通団子とか桜餅とか食べたくなるもんじゃねーの?」

「そう?」


夏見はしれっとした顔で笛ラムネをかじる。つくづく変な男だと思いながら俺もさくらんぼ餅を開けて爪楊枝で一粒刺して口に放り込んだ。相変わらず微妙な感触と微妙な味。


「…うん。桜を眺めながら食うのもなかなか乙っすな。地味だけど」

「俺も食べたい」

「おう」


爪楊枝とさくらんぼ餅を夏見に手渡す。すると夏見は一気に四粒を楊枝に突き刺した。


「ちょいちょいちょい!馬鹿野郎!これは一粒ずつ食べるもんだろうが!」

「俺が買った」

「そっ…そうだけどっ…!さくらんぼ餅は一粒ずつ大事に食べるものだろ…っ」

「……広瀬(ひろせ)って…」

「あ?」

「…何でもない」

「みみっちい奴だとか言おうとしただろ!?」

「違う」

「じゃあ何だよ!」

「…女子っぽい」

「はあぁっ!? テメェさっきから女児だの女子だの言いやがって…!」

「…あ、カラス」

「え? あ、ほんとだカラスだ」


夏見が指差す空には確かにカラスが一羽飛んでいた。遠くへ消えていく様をなんとなくぼんやり眺めてしまう。


「…って、カラスが何だよ!? カラスで誤魔化すな!」

「さくらんぼ餅、もう一個ある」

「マジか!」

「ふっ」

「…!? オイ、今笑っただろ?」

「…笑ってない」


笑い顔を見られないようにか、夏見はそっぽを向きながら新しいさくらんぼ餅を俺に差し出す。

…クソ。なんかずっと弄ばれてる感じがする。調子が狂う。

…でも本気で嫌な気分にはならない。コイツがまとっている落ち着いた雰囲気のせいだろうか。…なんとなく、他の奴らといるときよりも気負わないで自然でいられる気がする。


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