秘め事(2/19)


「ね…帰って続きしよ?」

「あ、あぁ…。…あ? そういえばミヒロ、スマホ没収されたんじゃなかったっけ?」

「……っあーー!!そうだっ!忘れてた!!」

「反省文書かされるんだっけ」

「そうだよ!もーっ反省文ってなんなのもうマジ最悪!」

「教室で待ってるから、早く終わらせてこいよ」

「うんっ絶対待っててね!」


授業中にスマホを没収されたことを思い出して平常に戻ったミヒロは大慌てで屋上を出て行った。

ミヒロのことだから、なんやかんやダダをこねて反省文を書き終えるまで結構な時間がかかるに決まってる。それまでこの景色を堪能してよう。


…あの上に登ったらもっと広く見渡せそうだな。

ミヒロが出て行ったドアのある塔屋は3m以上の高さはあった。デカい給水タンクがあるのはわかるけど上がどうなってるのかはここからじゃ見えない。とりあえず登ってみるか、とドアのそばに付いている梯子に足をかける。


不安定な梯子を上るのは別に怖くなかった。

だけど、上にあったものを目にした瞬間、爆発しそうなほど心臓が飛びあがった。


「おぎょあーーーっ!!?」


今まで出したことのない叫び声を上げて、あまりの驚きで梯子から手を離してしまいそうになる。慌てて梯子にしがみついて改めて目の前の光景を見る。

古びたコンクリートに広げられている水玉柄のピクニックシート。そこに一人の男が座ってポッキーをかじっていた。


「おっおまっ、何してんのっ…!?」


男は俺なんて見向きもせず周りにあるビニール袋のひとつを漁り始める。


「花見」


気だるげに一言答えて男は取り出したスナック菓子の袋を開けた。


…俺はこの眠そうな顔を知っている。こいつは同じクラスの夏見(なつみ)だ。

不良寄りな俺とは系統が全く違うから、入学してからこの一ヶ月まともに会話なんてしたことがなかった。女子が隠れイケメンだとちょいちょい噂していたから名前は覚えてる。

3年間一緒に過ごしても仲良くなることはないだろうと思っていた。…なのに、まさかこんな所でこんな形ででくわすとは…!


「…あ。あー、俺たちが来たせいで菓子の袋開けられなかったんだろ。邪魔してごめんな」


夏見の周りにはたくさんのお菓子があるのに開いているのはポッキーの一袋だけだった。開けると音が立って俺たちに気づかれてしまうから開封できなかったんだろう。


「ん。…学校で花見をすると青姦を覗けるオプションがついてくることがわかった」

「ぶはっ」


アオカンって! なんだコイツ、おとなしそうな見た目してるくせにサラッと露骨な下ネタ言えるのか。つーかついさっきまで俺たちが卑猥なことをヤりまくってたのに平然としてるし。

意外な一面を知って、この不思議な男に興味が湧いてくる。それ以上に周りに広がる色とりどりのお菓子に俺はずっと心を惹かれていた。


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