その毒をください(4/5)


「いいんだよ兄さん、僕には全部さらけ出して。もちろん誰にも言わない。せめて僕の前だけでも楽になって」


なだめるように頭を撫でる。
兄さんは今にも泣きだしそうな顏になって小さく僕の名前を呼んだ。


「…ごめん…」


そう囁くと兄さんは俯いて手首に唇を付けた。
遠慮がちに出てきた舌が一列目の傷をそっと舐める。


「…っは…ぁ、」


血の滲んだ縦線を端から端まで丁寧に舐めると兄さんの身体がぶるっと震えて色っぽいため息がこぼれた。


…僕の血を舐めて恍惚とした表情を浮かべる兄さん。
こんな光景、想像すらしたことがなかった。

生まれて初めて感じる優越感に一気に理性が崩れて脈が上がる。


「い、痛く、ない…?」

「うん。全然痛くないよ。もっと、好きなだけ舐めていいよ?」

「ん……っ」


ちゅ、と二列目に口づけて今度は舌先に少し力を込めて傷に這わせていく。

感覚が敏感になっている傷口に触れる舌は柔らかくて生々しくて気持ちいい。

背徳的で不健全な行為に僕の精神も次第に呑み込まれていく。


「…はぁっ…、ぉ…いしぃ…っ」


うっとりと吐き出された言葉を聞いた瞬間、ドクンと激しく心臓が高鳴った。

もっとめちゃくちゃにしたい。
今までずっと自分より先に居て届くことさえなかった兄さんを支配してしまいたい。

そんな動物的な衝動に駆られて兄さんの下半身へともう片方の手を伸ばす。


「ふぁっ…!?」

「ここ、苦しくない?」


ガチガチに固くなっているそこを撫でると兄さんは甘い声をもらして身体をすくませた。

緩く撫で上げて一息に下着の中まで手を差し入れて先端を握る。


「ぅあ…!やっ…」

「恥ずかしがらないで。僕の血を舐めてこんなに熱くなったんだね。嬉しい」

「ふっ…ぁ、あっ!」


先の方をこねくり回すと兄さんは何度も全身を跳ね上がらせて悶えた。
力が入らないのか、脚がガクガクと震えている。


「兄さんって敏感なんだね」

「ん、あっ…!いつもは、こんなんじゃ…っ」

「血を舐めたから?」

「んぅ…っ」


兄さんは素直に頷く。

本当に血だけでここまで興奮してるんだ。

きっと他の人が知ったらドン引きするんだろうな。

僕だけしか知らない兄さんの本当の顔。誰にも見せたくない。自分だけのものにしたい。


「…血、固まってきちゃったね」


一旦手を離して解放すると兄さんはその場に力無くへたり込んだ。

不完全燃焼で切なげに息を荒げている姿を尻目にキッチンに置いてある包丁を手に取る。


「…! 樹…っ!」


切っ先を手首に当てて力任せに引っ掻く。

剃刀よりは切れ味が悪いけれど十分な傷が出来上がった。


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