その毒をください(3/5)


仲のいい兄弟ごっこはもうお終いだ。
…あーあ。家に居づらくなるなぁ。

投げやりな気持ちになりながらテープを無造作に引き剥がす。すると兄がビクリと震え上がった。

…そういえばこの人、血が苦手なんだっけ。

昔からテレビや本なんかに血が少しでも映っていただけで目を閉じたりその場から逃げていた姿を思い返し、子供じみた嫌がらせを思いついた僕は口元を歪ませる。


「…ねぇ。僕の体を気遣ってくれてるならこの傷、手当てしてよ」


手を差し出すと兄の身体がますます強張った。かさぶたの剥がれた傷口からは血の球がいくつも浮かんできている。


「ごっ、ごめん…、出来ない…」

「どうして? 自分より遥かに劣ってる僕の血なんて汚くて触れないか」

「違うよ! そんな訳じゃない、けど…っ」

「じゃあ手当てしてよ。兄さんのせいでこうなってるんだから」

「あっ…!!」


手を掴んで無理やり傷に触れさせる。

ぬるりとした感覚と沈痛が走る。


兄は面白いくらい顔を引きつらせていた。

全身を小刻みに震わせて、顔面どころか耳まで真っ赤になって、呼吸はどんどん荒くなっていく。


…って あれ? これ、怯えてるっていうより…


「兄さん? …もしかして…興奮してるの?」

「──っ!」


兄は嘘をつくのは得意じゃない。「してない」と言う声は明らかに動揺しているし、そして何よりズボンの中心がもう既に窮屈そうに盛り上がっていた。


「…ふっ、ぁはははっ」


思わず笑いが込み上げる。


なんだ。そうか。そうだったんだ。
…兄さんは僕よりもずっと『可哀想な人間』だったんだ。


「樹、頼む…っ離して…」

「嫌だ。兄さんだって本当はもっと触っていたいでしょ?」


逃げようとする体を壁まで追い詰める。欲望に抗いきれないのか、片腕で簡単に抑え込めるくらい兄さんの体は力が抜けてしまっていた。


「我慢しなくていいよ。もうわかっちゃったから。兄さんは血が苦手なんじゃなくて大好きだったんだね」

「違……っ」

「笑ってごめんね。馬鹿にしてるわけじゃないよ。嬉しくなったんだ。僕以上に兄さんも苦悩し続けてたんだってわかって」


血を見ただけでこんなにも発情するなんてとてもじゃないけど常人じゃない。頭のぶっ壊れた変態だ。

そんな異常性癖を押し殺して隠すために必死に『まともな人間』を演じ続けていたんだ。

それがわかるとたちまち兄さんが気の毒になって、愛くるしいとまで感じるようになった。


「これ、どうする? このままじゃ血固まっちゃうよ」


触らせているままの手首を軽く持ち上げて兄さんに見せつける。

涙目の兄さんは何か言いたげに口を開いたけれどすぐに唇を噛みしめた。


「……舐めてみる?」

「…っ!」


まだ理性と闘っているのか、兄さんはぎゅっと目を閉じて弱々しく首を横に振る。
けれどさっきよりも顔は上気して呼吸が荒くなっていた。


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