処罰は行わなければならない








 それから、ベッドまで歩かされた。ぐらぐらと覚束なく歩く私を、彼は寝室までエスコートしていった。
 支えられた左手も、冷たかった。私は恐る恐る歩き、彼は何も恐れていないみたいだった。
 眼鏡をかけていてもよくわかる鼻筋の通った横顔は、痛みを和らげる美しさを孕んでいた。
 彼はどこもかしこも美しかった、その上、優しくて冷徹だった。








「……はぁ……」
 吐息が零れ落ちる。私は靴を履いたまま裸にされベッドのうえで彼に抱かれていた。
 シーツが波打つ様は、海を連想させる。
 彼は私の中を泳いでいる。
 感じてつまさきを伸ばすと、左足の痛みが甦り顔を歪めた、息を荒らげ私は痛みも愉悦と捉えて喘いだ。

「ねぇ、歩けなくしてもいい?」
 くちびるのすぐうえにくちびるを寄せて、艶かしく腰を動かし彼は問いかけた。
「どこにも行けなくしていい?」
 頬を両手で挟み込み、彼は吐息でくちびるをなぞる。言葉を囁きにする、口内の舌の動きまでも凄艶だった。

「え…っ!?あ…っ!」
 躰を反らし、私は絶頂を得た。
 目映いようでいて真っ暗にも感じるオーガズムが、目の前を過る。
「感じたの?冗談なのに」
 面白そうに笑う彼は私に何度もくちづけた。髪の毛を、じわじわと引っ張られる。
「ん…っあっ、ん…っ」
 重ねるくちびるを弾ませて、私は嬌声を上げた。彼はさらに深くを目指し、腰づかいを濃厚にする。
 体液が絡まる音が聞こえる、足はおかしな角度を保ち、時に痙攣するから痛くなる。
 痛みのなかで快感を覚える。

 ふと、彼の眼鏡にゆびを伸ばしたくなった。無性に、触れてみたくなった。
 奥に幾度となく彼を感じながら、そろそろと手を伸ばす。
 もうすぐで触れる前に、手首をぎゅっと掴まれ制止された。きつく掴まれて、折れてしまうのではないかと不安になる。
 不安になることも愛しく、私は高揚している。


「何?外したいの?」
 より一層力を込めて手首を掴み、彼はくちびるへと吹き掛けた。
「だったら、口に咥えて外してよ」
 私を戸惑わせる言い方だった、隠された冷たさが心を導く。
 揺れ動くベッドのうえで裸体は重なり、肌が密着して擦れあう。

 感度を上げてふるえるくちびるは噛み合わせが思うようにいかず、眼鏡を咥えることが非常に困難だった。私は彼の鼻や眼鏡のレンズにキスをするばかりで、口に咥えて外すことができない。
 中で速度と鼓動が増す、優しくて冷たい彼は、赤く締まり熟れて蕩けた私の体内を泳ぎ続ける。

「無理難題を押しつけられると、締まるね?中……」
 腕から手を離した彼は首筋にキスを落とし、腰づかいを鮮やかにさせた。

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