処罰は行わなければならない
「新しい靴を用意してあるから、履かせてあげるよ」
きちんとテーブルを一周させたあと、彼は歩き方については何も言わず、ソファの上に置いてあった新しい靴の箱を手にした。
突然表れたように見えて、私は目を見張る。歩いているときには、ソファの上を注視できていなかったせいか何も置かれていないように見えていた。
「どうしたの?早く座りなよ」
ソファを手のひらで柔らかく叩いて、箱を抱えた彼は促す。
「う、うん……」
私は足をひきずって、まずはソファに手を突き、慎重に腰かけた。私の目の前に、彼は跪いていた。
見下ろしながら、見下ろされているような気がして私はワンピースを握りしめた。
「今度のはもっとヒールが高いけど、大丈夫かな?」
箱を床に置いて、丁寧に両手で彼は蓋を持ち上げた。ヒールを折ってしまった靴と比較すれば、さらに高級なブランドのものだった。安定感のありそうな、シックなハイヒール。
光沢のある、白いハイヒールだった。
右足を掴んだ彼は、するりと靴を履かせる。サイズはぴったりで、腫れている左足には入りそうもない。
私は不安になる、左足を掴まれたら痛いことはわかりきっている。
左足は止めて、と言いたいのに、言葉を呑み込む。足を掴んだ彼のゆびさきは冷たかった。冷たいゆびが今は、右足に食い込んでいる。
左足は止めておこうか?とも提案せず、彼は左足を掴んだ。
痛くて私は小さな悲鳴を上げた。
「可愛い声だね、鳥の囀りみたい」
くすくすと笑いながら、彼は左足にもハイヒールを履かせた。するりとはいかなかったけれど、慣れた手つきで。
痛くてみっともないところを見せた左足は彼の手のなかで縮こまってしまったのか、激痛と共に新しい靴をかっちりと受け入れた。
目に、涙が滲んだ。
跪いたままの彼は、私を見上げて微笑む。左足はすぐに離そうとせず、腫れた部分をいたわるみたいにさすった。
さすられると、痛みが増した。
「あ、雲が途切れた」
彼は窓を見やり、呟いた。どこまでも灰色だと思っていた空から、一筋だけ強い光が射し落ちている。
潤んだ瞳で私も窓のほうを見ていると、隣に彼が座った。私が見ていたほう、窓際のスペースに。
肩を抱かれた私は彼にしなだれかかる、ほんのりと甘美な匂いがしている。
左足がじんじんした、痛くて痛くてどうかしそうだった。
彼は私の肩を撫でながら、「痛いの?」と聞いた。左足を躊躇いもなく掴んだ手で、優しく肩を撫でながら。
私は頷いた。頷いたところでこの痛みがどうにかなるわけでもなく、彼はまたくすくすと笑った。
楽しげで穏やかな笑い声は不思議と、痛みを麻痺させた。
ハイヒールは、脱がせてもらえない。
俯き加減の私を覗き込み、彼は優しくキスをしてくれた。キスの手前では少しの間見つめあった、瞳の奥が凍りついた視線と瞳の奥から蕩けてゆく視線が不敵に交わった。
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