※※第354話:Make Love(&Nirvana).214







 リハーサルには間に合う、男の茶番に付き合う時間はまだあった。

 しかしながら夕月が微塵も怯まないことに激昂した京矢は、まだ言わずにいたほうがいいと自覚していた事実を早々にぶちまけてしまった。

 「だからあんたの息子は、F・B・Dを受け継いだんだ!あんたは暮中薔の本当の父親だ!ヴァンパイアなら嫌でもわかる、こんな身近にF・B・Dを持った人間が二人もいるわけねえってな!三咲ナナだって気づいてるだろうよ、恋人の本当の父親はあんただって!」

 京矢の言葉に美咲は青ざめた、それは夕月には決して教えてはならない真実だったからだ。
 すなわち、美咲はどこかしらのタイミングで夕月も薔もF・B・Dの持ち主だと気づいていたのだ。




 これにばかりは、夕月は目を見開いた。
 今しがた会話をしたばかりの男に、最も言われたくない真実を言い当てられてしまい、目の前がぐらついた。

 「……竜紀の最大の誤算は、本当の父親だけはどうやっても殺せなかったってことだ……まあ、あんたの大事なあの子を殺す決意くらいとっくについてるだろうがな……あいつは俺より遥かに異常だ、」
 大いなる番狂わせを自ら行ってしまったと気づいた京矢は力なく腕を下ろし、夕月に背を向けた。
 ドアへと歩きだした京矢のあとをついて、夕月をひたすら気に掛けながら、後ろ髪ひかれる思いで美咲は歩きだす。
 この呪縛から逃れて愛するひとの腕の中に飛び込んでしまいたかったが、彼女の背負う罪は重すぎた。



 「なあ、美咲、」
 妻に向けて、夕月は優しい言葉を送った。
 どれだけの残酷な真実を暴かれようと、彼女と共に生きたい想いに変わりはなかった。

 「また会おうな?」

 夕月の優しさは美咲の胸に残りつづけることとなる。
 京矢と美咲は吸い込まれるようにして閉じたドアに消えていった。














 ――――――――…

 「今回ばかりは本当にすまなかった、暮中……跪いて君の靴でも舐めよう……」
 今頃本気で謝罪をしている醐留権は、すでに薔の前に跪いてスタンバイしてはいた。

 「何言ってんだ?靴が汚れるだろ。」
 「それもそうだな……その通りだ……」
 呆れた薔はきっぱりと拒絶し、醐留権は跪いたまま納得する。
 あと、こんなところを見られたら桜葉が確実に喜ぶという、危惧をした。
 いったんあちらの世界へ行くとなかなか帰って来ないため、エッチな雰囲気になれそうな直前とかだったら是が非でも避けたい。


 「あっ、いたいた!要〜!」
 そこへ、醐留権家のおじいちゃんとおばあちゃんが仲良く揃ってやってきた。
 祖父母まで来ているとは予想外で、醐留権先生は度胆を抜かれた。

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