※※第354話:Make Love(&Nirvana).214







 「何やってるの?SMプレイ?」
 浮かれ気分でおじいちゃんは尋ね、

 「人前でSMプレイをするアベックがどこにいます?」

 こけしちゃんほどではないがにこやかなおばあちゃんは桜色の高級巾着で夫の頭を叩いた。
 小ぶりの巾着にはいったい何が入っているのか、おじいちゃんは床にぶっ倒れる。
 ※アベックとは:今でいうカップルのことである。


 「じゃあ要、仲良くね?」
 ホホホと笑ったおばあちゃんはおじいちゃんを引きずりながら、必汰という息子に説教をすべく探し歩いていった。
 醐留権の祖父母は未だ、要の恋人が薔だと勘違いしているらしい。



 「……まあ、あれらの中にいたわりにはあんた、まともに育った方なんじゃねぇのか?」
 「それもそうだな……」
 薔にはじゅうぶんなほどの、頭が冷える時間が与えられていった。
 慰められたような気分になった醐留権は、跪くのを止める。
 生徒にここまでの正論を言われると、清々しくなった。



 夕月はまだ到着しておらず、薔は手持ち無沙汰な部分が多々あった。
 肝心の主催者側はとても良い人ばかりだったが、衣装に大幅な手直しが急遽生じたとかで待ち時間が長そうだったからである。

 ゾーラ先生はちょっとした出来心で、このツーショットを彼女に送って喜ばせてあげようかと思った。
 今日くらい妄想に励ませてあげてもいいかと思った上での判断で、じつはこけしちゃんがゾーラ先生に腹を立てているとはまだ知らない。


 「あの……すみませーん!」
 醐留権が下手な過ちを犯す前に、スタッフらしき人物が声を掛けてきた。
 声のしたほうを見た醐留権は、嫌な予感がした、あまり目立たない青年が手にしていたのは白い薔薇の花束だった。





 「断ったんですけど無理矢理渡されてしまって……中にすごく綺麗な男の子がいるから渡してくれと頼まれたんですが、あなたですよね?」
 大雑把に伝えられたお届け先に迷うことなく到着した薔薇の花束は、返事もせずにいた薔の手に渡された。
 醐留権は共に見た悪夢が甦る、渡してきたのはどんな人物だったかと青年に問いかけたが、よく覚えていないということだった。



 「俺、……馬鹿だな……」
 ふと、呟いた薔のゆびには棘が刺さり、鮮やかな赤い血が流れ出していた。

 「ナナが夢見てたのは俺だけだったのに……」

 無性に、彼女に会いたくなった。
 勘繰って傷つける時間があったのなら、抱きしめてキスでもしてくれば良かった。




 花束ではなくゆびさきの血を見つめ微笑んだ薔を見て、醐留権はその完全な美しさにぞっとした。
 リハーサルは辞退させて帰したところで、無事に彼女のもとへ帰れる保証はどこにもなかった。
















  …――I love you,even if all of me is destroyed.

[ 83/202 ]

[前へ] [次へ]

[ページを選ぶ]

[章一覧に戻る]
[しおりを挟む]
[応援する]



戻る