※※第356話:Make Love(&Keep).216
「薔、いるか?入るぞ?」
秘め事の邪魔をしに来たわけではないが、突然、控え室を夕月がノックした。
ビクッ!となったナナは危うく声を上げてしまいそうで、手際よくスカートを下ろした薔は彼女のあたまを撫でて微笑むと余裕の返事をした。
「どうぞ?」
腰を抱かれたナナは自然な体勢になるよう椅子に座らされ、ごくりと息を呑んだ。
ドアを開けて入って来た夕月は、昨日の白い薔薇の件を危惧してはいたので、薔の姿を見たとたんほっとした様子だった。
決して、薔を攻めたりするような人物ではないのである。
「ナナちゃんも来てたのか、熱はもう大丈夫なのか?」
ナナの姿にも安堵した様子で、微笑んだ。
「え…っ?あ……はい……」
熱を出してはいないので何のことだかわからないなりに、ナナは話を合わせる。
声を出すことに戸惑い、まだ濡れてゆく躰を必死で制止しようとしたが無理だった。
自分が何を答えているのか、よくわからなくなる。
「まだ熱っぽいようだな……」
夕月は彼女の火照りは熱によるものだと思ったようだ。
熱を出したと言っておいて正解だったかもしれない。
「でも、一人にしておくわけにもいかねぇしな……」
意味深な言葉を返した薔は彼女のあたまをよしよしした。
それは端から見れば恋人同士の自然な仕草だったかもしれないが、ナナには堪え難い愛撫だった。
今すぐにでも、からだじゅうを撫で回して欲しくて、冀ってしまいたくなる。
「……お前の出番を待っている、熱心なファンもいる、気をつけろよ?」
それだけ言い残し、夕月は部屋をあとにした。
特にこれと言った用があったわけでもなく、挨拶に来ただけだった。
ナナが焦れてしまう恰好のタイミングで。
夕月が来たことは時間があまりないことを示唆していたが、ナナにはそれがわからなかった。
「羨ましいくらいの過保護だな……」
ドアを閉めた夕月は誰にも聞こえない声で、自嘲気味に呟いた。
「……っ、」
夕月が出て行くとナナはいきなりくちびるを奪われ、かき抱くみたいに抱きしめられた。
彼にしがみつくと、先ほどと同じ場所に座らされる。
「はぁ――――――――…」
くちびるを放した薔は深い溜め息のような息を吐き、耳もとで囁きかけた。
「挿れるつもりはなかったって言ったら……おまえ、信じてくれるか?」
あたたかく吐息が耳を滑り、ナナは快すぎて息を荒らげた。
彼のことだから、ただ焦らして意地悪をするためだけに触れることはじゅうぶんにあり得た。
その予定を狂わせたのは自分なのだから、この上なく嬉しい。
「信じます」と答える代わりに、頷いたナナは彼にすり寄った。
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