『来てくれたんや。ありがと、光』
「それで急ぎの用ってなんや?」
空き教室に光を呼んだ。時刻は15時ちょいすぎ。部活が始まる前。私の一世一代の決心。この関係に終止符を打つ。全てが終わったら自分で自分を褒めてやろう。
「ピカチュウ?」
『ひ、かるは…ずっと私の幼馴染みでいてくれるか?』
「…は?何云うてるんや、俺とお前は切っても切れないような仲やろ?幼馴染みなんてな、嫌になっても幼馴染み止められないんやで?」
『そっか…。そうやな』
それを聞いて決心が固まったような気がするわ。これでちゃんと云える。
『―――…別れよか』
「は?」
『別れると云うても付き合ってる感じなんてなかったけどな』
「ちょい待ち、」
『光とは幼馴染みに戻りたい』
「待て云うてるやろ!」
無理矢理肩を掴まれて言葉を遮られる。
「いきなり何云うてんねん。頭が付いていかへんわ」
『光、前告白して来た子が好きなんやろ?ずっと一緒にいたんや、私の目は誤魔化されへんでー?』
わざと明るく云う。笑った顔を作らへんとボロが出てしまいそうや。
『―――…やから、別れよ、光』
縛り付けてごめん、自由にさせなくてごめん、光の気持ちを知っていたのに、ってことをわかりやすく、だけど詳しく話す。光は表情ひとつ変えずに淡々とそれを聞いていた。
『光はずっと幼馴染みでいてくれるって云うから。だから私は、光に幸せになって貰いたいねん』
頭の中がぐちゃぐちゃで何云うたらええのかわからん。光、わかってくれたやろか、私がいいたいこと。
『大切な幼馴染みやから幼馴染みとして光の幸せを願いたいねん!』
「―――…、わかった」
『…そか。良かったわ』
「俺はピカチュウのこと大切な幼馴染みやと思ってるから。これからもずっと、大切な幼馴染みやと思ってるから。お前に縛られたとか思ってへんし、あの時間だって俺の大切な時間だったわ」
うわ、最後になんていうことを云うんや。未練たらたらになりそうやないか。光、滅茶苦茶格好ええやん。泣かないで、私は。最後まで泣かないように気を付けるから。
「俺も、ピカチュウの幸せを願ってるわ。大切な、幼馴染みの」
『光、』
「…ほなな」
『…おん』
もう振り向かない。大丈夫、後悔なんてせんわ。これで良かったんやから。これが一番良かったんや。大丈夫、とっくに恋心なんてなかったやろ?苦しむ必要なんてないんやから。恋人から幼馴染みに戻っただけや。前までの関係に戻っただけや。……私の長年に渡る恋は、私の初恋は、今終わったんや。


この恋もやっと終わったんだね
(なんでこんな胸が苦しいんやろなあ?)



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