宇佐美と尾形の因縁は、聞いていた。
入院中にいじめられて、おまるで殴り飛ばしたとかなんとか、柔道を基礎とした接近戦に強いとか、そんな話である。
頬のほくろが特徴的だと聞いていたから、すぐに分かった。

その宇佐美に出会い頭に腹を蹴られ、ヒュッと息が止まる。
先手を取った宇佐美はnameの右腕をとると、そのまま投げに入るが、nameが着ているアットゥシの袖が破れ、たたらを踏む。nameは投げられた勢いで壁にぶつかりかけたが、何とか着地し、マキリとタシロを抜く。ふたりの体勢が整い、一瞬睨み合う。

マキリもタシロも、本来山で生きていくための道具であって、ひとを傷つけるためのものではない。しかし、nameは誓ったのだ。アシリパとフチ、家族、大切な仲間たちを守ると決めた、そう、夫を亡くしたそのときから。そのためなら人を殺めることも厭わないと。

肩にかけた銃が重くて邪魔だ。nameが投げ捨てる。その隙を合図に、宇佐美は銃剣を振りかざして一気に間合いを詰めてくる。nameは銃剣の長い間合いを利用し宇佐美の懐に飛び込んで、マキリとタシロ両方で宇佐美の脚に切りつける。殺さなくてもいい、脚に深手さえ負わせ、追ってこられないようにすれば諦めるだろうと思ったのだが、nameの考えは甘かった。とっさに足を引かれ、傷は浅い。
頭上から宇佐美の銃床が降ってくる。当たれば死ぬか、良くて昏倒する勢いである。宇佐美は接近戦が得意だ。手加減できる相手ではない。気配を察したnameがギリギリのところで銃を避けると、一足飛びに距離をとり、低い姿勢から宇佐美の体勢が整うのを待たず突進し、今度はマキリを脚に突き立てようと狙う。が、逆に銃剣で腹を切り裂かれてしまう。血がボトボトと垂れる。浅からぬ傷だが、同時に動けなくなるほどではない。例えば杉元なら、何ら気にすることなく戦い続けるだろう。

「脚を狙うね。」宇佐美がnameの意図を見透かして笑った。
「その顔の妙な入れ墨を狙ってもいいのよ。」nameもにっこり笑う。
「美人の笑顔はそそるけど、」宇佐美が腹の傷をめがけて蹴りを繰り出すと、nameは身軽に飛び上がって避け、頭上から宇佐美の首を狙ってマキリを振り下ろす。宇佐美はそれを見越して銃剣を上に向け、nameの脚を銃身で殴りつける形になる。が、体重の軽いnameが空中で殴られても吹っ飛ぶだけで、あまり大きな傷にはならない。
「僕、美人の苦しむ顔のほうが興奮するんだよね。」

入れ墨をバカにされた怒りを隠しもせず、再び戦闘態勢を取るnameを睨み付ける。
nameの背筋がぞっと粟立つ。まともに戦って勝てる相手出ないことはこれまでのやり取りを見てもわかる。nameは不死身ではなく、現に足元の土は、腹から流れ出す血液で湿り気を帯びつつあった。隙を見て戦いから離脱し、一刻も早く杉元とウイルクのところにたどり着かなければならない。

ジリ、と互いに睨み合い、膠着した瞬間。
ドッと宇佐美が倒れ込み、続いてターン……という銃声が、喧騒の向こうにかすかに聞こえる。脚を撃たれたらしい。
「百之助ェ!!!」
宇佐美が憎々し気に吼えるのと、nameが教誨堂へ向かって走り出すのとは同時であった。




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