火と煙

シュパァァ--

その銃弾は、nameの左の耳飾りを、耳たぶごと吹き飛ばした。
こんな芸当ができる人は、ひとりしか知らない。
「谷垣、杉元とウイルクさんさんを頼む!」

nameは弾丸の飛んできた方向へ駆け出した。
立ち上る煙の隙間を縫って、山側のヤグラから狙いを定めている尾形をひた、と見据えながら。

ヒュン、という音がして、右の耳も吹っ飛ばされる。来るな、ということか。尾形の考えていることはわからないけど、感情は手にとるようにわかる。これは恐怖だ。尾形はわたしを恐れている。血が耳に流れ込んで轟々という音がする。
腹も撃たれて血が足りない。クラクラする頭で感じたが、nameはひた走った。真実を、知りたい。尾形の考えていることを知りたい。

昨夜チタタプと言った意味を。求婚の作法を行なった意味を。

ヤグラの裏にある梯子を登るのももどかしく、タシロを打ち込んで足場を作り、するすると登る。

「尾形だ。やっぱり、尾形だった。」

信じたくない、信じられないけど、尾形しか、いなかった。

「ハハッ、ネコみたいに登ってきたな。さすが身軽なだけある。」

尾形は、髪をかき上げながら笑った。相変わらず、人を小馬鹿にした、拒絶するような笑顔で。

「尾形ッ!どうして裏切った!杉元を……!!」

周囲の音が、消えた。

「裏切り?違うな、枷だ。これでお前は自由になれたじゃねえか。金塊やアイヌやその指輪は、お前の枷。違うか?」

尾形は昏い瞳で、す、と手を差し出して言った。

「来いよ。お前は、俺の女だ。脛に傷持つもの同士、だろ?」

nameは激昂した。

「黙れェ!私はアイヌだ!!この葛藤も痛みも全部、わたしのものだ!」

「……そうかよ。」

尾形は血を流しすぎて膝をついたnameの左手の薬指の根本を、ライフルで正確に吹き飛ばした。
大きすぎる指輪が、歪んで転がる。
いつもの人を食った笑顔になると、自嘲気味に笑った。

「ハハッ、所詮お前ののたまう愛もその程度ということだ。俺は行く。」

尾形は、容赦なくnameをヤグラから蹴落とすと、姿を消した。


(尾形、尾形っ、尾形……!!)

指の欠けた手を伸ばす。

(つれていって……!)

nameはバッと布団を跳ね除けて起き上がった。
すうっとすぐに気が遠くなり、知らない、がっしりとした腕に支えられる。知らない天井が見える。

ああ、彼は行ってしまったのだ。



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