dishs and books 5
nameは風呂で今日1日のことを思い返していた。
殺人犯どのが怖くないわけではないが、彼が漫画を読む姿はなんとも言えず美しかったのである。おもわず見とれるほどに。
無表情ではあるが、伏した目、長い睫毛、頬にかかる闇色の髪、ページをめくる白い指。
この手がどういうわけか知らないが獣の手になって人を殺した、とは到底思えないほど、
白百合のようにほっそりとした指だった。
じゃばり、とお湯をすくって、自分のペンだこのついた手を見る。鏡を拭って顔を見る。
どこからどう見ても平々凡々で、今夜のような出来事すら似つかわしくない、
白百合に対してまるでぺんぺん草のように呑気な顔だ。
「そういえば、名乗っただけで、名前も聞いてない……。」
彼は、また来る、と言っていた。来ないでほしいと願いつつ、どこか、再会を期待している自分。そんな自分を認めまいと、nameは湯船から勢いよく上がった。
戸締りはしっかりしようと決意しながらも、あの漫画を早く訳してしまわなければ、と思うnameであった。
一方のゾルディック家。
夜更けに帰宅したイルミはその足でミルキのもとへ直行した。深夜とはいえ、ほぼ昼夜逆転型の弟はまだ起きているだろう。
一応ノックをしてから、返事も待たずにドアを開け、
「ミルキ、いる?」
とのたまう。
弟は慌ててPCのディスプレイを消し、
「なんだよ、兄ちゃん!いきなり開けるなよ!」とあわてている。
当のイルミは
「ノックはしたのに。」
飄々としたものである。
「ねえ、ジャポンの漫画って持ってる?」
「す、少しならあるけど……「どこ。」
「(食い気味かよ)この辺り一帯がそうだよ、兄ちゃん漫画なんか読むのかよ?」
「まあね。」
と言いつつ棚を眺めるが、背表紙からでもR18な肌色が全く多いことがわかる。
その中の数冊を手に取り、訳者にnameの文字がないことを確認すると、イルミはありがと、と言い置いてミルキの部屋を去った。
「なんだよ、あれ……?」
(ミルキ、ごめんね)
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