時代がどうこうとか世の中がどうこうとか、大概に関して、僕はどうでもよく無関心を貫いていた。
 与党野党が大騒ぎだとか、どこぞの狸面した政治家が腹と共に懐も肥やしてたとか、大御所芸能人がセクハラで訴えられたとか、海の向こうで世界的ジャイアンが軍事参入でどうたらこうたらとか。
 全く関係ないことだし、どうこう出来ることでなければどうこうしようとして原宿でデモ行進に参加するつもりもない。
 大概が「あ、そう」と聞き流して無関心を貫く毎日だ。
 いや、それは今、目前で過去形になろうとしているが。

「君しかいないんだ!」

 ぺらぺらと風で飛ばされそうな書類を一枚テーブルに置いて、彼等は床に額をこすりつけていた。
 これがいわゆる世に言う土下座というやつかと、そんなことを考える暇もない。
 何故なら、簡単に言うなれば、僕は今ヒーローに任命されようとしているからだ。
 今まで聞き流していた何事かに関して、ひっ迫した政府は若者達の中からヒーローを祀りあげることにしたらしい。
 と、土下座している狸面の誰かがさっき言っていた。
 ちなみに「君しかいないんだ!」の台詞は決まり文句兼口説き文句みたいなもので、どうやら僕は584人目のヒーロー候補であるらしい。
 583人に断られるヒーローってどうなのか。

「頼む、君に日本を救って欲しい!」

 半泣きでそう言った狸面の彼は、確かテレビで見たことが……あったようななかったような。
 それはともかく、総理大臣でさえ出来ないらしいヒーローを自分に頼むとは、気づかないうちに、日本は相当だめになっていたようだ。
 さてどうしたものかと自分の手を見れば、いつの間にか拳がスウェットを握り締めていた。
 ああ、とようやく気づく。
 何だ俺、結構やる気だったのか。
 無関心を貫いていたくせに、当事者になろうとしているのか。

「わかりました」

「救えるかはわかりませんが」とは言わない。
 どうせやるなら、ヒーローらしく絶対に救ってみせる。
 無関心な若者は、こうしてヒーローになった。





初出_20110323

負け犬ヒーロー



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