人間に憧れを抱く妖怪は実は多い。
 かのアニメーションモデルにもなった一家が「人間になりたい」と人間世界に名言を残したが、それは名言でも何でもなく妖怪達の本音そのものである。


「あー人間になりてー」
「じゃあ取り敢えず小豆とぐの止めたら」
「お前な、そうは言うけどこれはもう習性で」
「止められるよ、あたしだって油舐めるの止められたよ」
「オイルショックで?」
「まあね」


 小豆とぎに向かってそう助言したは油舐め。
 それを見ていた口裂け女が、はあ、と溜め息を漏らした。


「あんた達はまだいいわよ。人間に近い容姿じゃない?」
「あんた元は人間でしょうに」
「俺、人間に近い容姿してるかな!?」
「ないない、小豆はない。顔でかいし」


 口裂け女の憂鬱は、油舐めの小豆とぎに対する心ない言葉によって遮られた。


「ちょっとわたしの話聞いてる?油舐めさん、ちょっと古株妖怪だからってね」
「だって口裂けさん、元は人間じゃないの」
「……そうだったかしら」
「さあ、聞いた話だけど」


 長く妖怪をしていると、何とも、肝心なことを忘れるものらしい。
 それをまた聞いていた唐傘小僧が、はあ、と溜め息を漏らした。


「油舐めも小豆とぎも口裂け女もまだいいよ、上手くすれば人間に見えるじゃないか」
「まあ……」
「そうかな……」
「……あなた、傘だものね」


 どう頑張ってみても人間と異なる容姿である以上、変身機能でも装備していない限り、憧れは遠いものだ。


「猫娘もいけるんじゃないか?」


 とは小豆とぎ。


「そうね、あの子、油舐めさんと顔立ちが近いし」


 続く口裂け女。


「ちょっと止めてよ!あんな猫顔じゃないわ!」


 憤慨する油舐め。
 そうして考える妖怪四人。
 どうしたら人間になれるだろうか。


「……変装してみる、とか?」
「変装ね、いいかもしれないわ」
「俺はシークレットブーツを履いて、等身を増やせばいいのか?」
「あんたは取り敢えず小豆とぐのを止めなっての」
「わたしは……マスクをしたらいいかしら」
「いつもと一緒じゃん」


 まとまらない三人を眺めて、唐傘小僧は、また溜め息を漏らした。


「……僕だけ無理じゃないか」


 心配することなかれ。
 間違いなく、ぬりかべも無理に違いない。





初出_20090909

妖怪座談会



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